テクニカルノート

データリファレンスガイド XPS装置編(Ulvac-Phi)

装置編

概要

装置名

X線光電子分光装置(XPS)

製造メーカ

アルバック・ファイ株式会社

製造モデル

Quantes, Quantera II, Quantera SXM, VersaProbe II, VersaProbe III

対象物

半導体、金属、絶縁体、有機、高分子材料など、様々な材料に
適用可能。

測定対象

固体、薄膜、粉体

サンプル調整

非破壊

測定環境

超高真空下

測定情報

元素同定、元素定量、化学結合状態

 

保有機関

機関名

機器ID

ARIM装置名

モデル

産業技術総合研究所

AT-103

原子層堆積装置_3付帯XPS
装置

Quantera II

名古屋工業大学

NI-005

X線光電子分光装置

Quantes

物質・材料研究機構

NM-202

硬X線光電子分光分析装置(HAX-PES/XPS)

Quantes

物質・材料研究機構

NM-225

X線光電子分光分析装置(XPS-Quantera SXM)

Quantera SXM

奈良先端科学技術大学院大学

NR-401

多機能走査型X線光電子分光
分析装置

PHI5000VersaProbe II

東京大学

UT-308

多機能走査型X線光電子分光
分析装置(XPS)with AES

PHI 5000 VersaProbe III with AES

 

装置の目的

X線光電子分光法(XPS)は固体表面 にX線を照射して表面から放出される光電子のエネルギーを分析することにより、固体表面の元素同定や元素定量および化学結合状態を分析する手法です。XPSは以下の特徴を持ちます。

・軟X線(Al線源)を用いると~10 nm程度、硬X線(Cr線源)を用いると~30 nm程度の検出深さで分析が可能
・Li以上のすべての元素が分析対象
・検出下限はおよそ0.1 atomic%程度
・10数 µm程度の微小領域分析が可能
・基本的に非破壊分析法であるが、イオンスパッタリングと組み合わせる(破壊法)ことにより深さ方向分析が可能
・金属、半導体からセラミックスや有機材料まで幅広い材料を分析可能
・超高真空下で分析することが必要

XPSはこれらの特徴を活かして薄膜や積層膜の表面・界面分析,表面処理材料の状態分析,表面における劣化・故障解析などに用いられます。

(引用文献:日本表面科学会編(1998)表面分析技術選書 X線光電子分光法 丸善出版、ISBN‎ 978-4621081556)

 

測定原理

サンプル画像XPSはX線を試料に照射して試料表面から放出された光電子の運動エネルギーを分析する手法です。X線の励起エネルギー(hν)と試料表面に存在する元素が持つ電子軌道の束縛エネルギー(B.E.)とその電子軌道から放出された光電子の運動エネルギー(K.E.)との間には下記のような運動エネルルギー保存則が成り立ちます。

hν = K.E. + B.E.+Φ (Φ:試料の仕事関数)

サンプル画像X線の励起エネルギーは既知であるため、光電子の運動エネルギーを測定すれば光電子が存在した電子軌道の束縛エネルギーが求まります。この束縛エネルギーは元素固有の値を持つため、元素の同定を行うことができます。また、検出された各元素のピーク面積とそれらの相対感度係数を用いて元素定量を行うことができます。さらに、同一元素の同一軌道の束縛エネルギーは、注目している原子の結合状態により微妙に変化(化学シフト)するため、この変化量を読み取ることで元素の化学結合状態を分析することができます。


(引用文献:日本表面科学会編(1998)表面分析技術選書 X線光電子分光法 丸善出版、ISBN‎ 978-4621081556)

 

推奨測定条件

【サンプルサイズ】
(Platen使用時)横方向に最大60 mm × 60 mm、厚さ5 mm以下のサンプルを使用してください。特に平坦な表面を持つ試料が望ましいです。試料の形状が歪んでいる場合は、試料ホルダー内で試料観察面の傾きと位置を安定させる工夫が必要です。

【前処理】
試料表面には何も付着させず、触れさせないようにしてください。特に有機物、塩分、皮脂等による汚染を避けるため、素手での取り扱いは避け、清浄なピンセットと手袋を使用してください。試料の試料ホルダーへの固定には原則専用の留め具を使用しますが、どうしても両面テープを使用する必要がある場合は導電性カーボンテープを用いることを推奨します。その他の固定方法を用いる場合、試料への影響がないことを事前に確認することが望ましいです。試料の固定方法や配置については、付帯情報として表1に記載します。

【計測条件】
XPS測定においては、装置の推奨条件に準拠してください。具体的には、表2-1および表2-2にあるQuantes, QuantraII, VersaProbeIIの推奨実験条件を使用します。測定中のX線源の選択(Al KαやMg Kαなど)、エネルギー分解能(高分解能モードや広域スキャンモードの選択)、検出角度、及び試料の帯電補正方法は、試料の種類や分析目的に応じて調整してください。

【推奨実験条件】
表2に、推奨される測定条件を示します(ピンクでハッチングされた項目が該当条件)。これには、エネルギー分解能、測定時間、試料の帯電補正方法、及びスパッタリング条件が含まれます。

 

表1: 試料の試料ホルダーへのセッティング方法について

注意事項

注意事項が考慮されなかった場合に起こる現象

試料自体とホルダーとの電気的接触に注意する。

試料自体とホルダーとの電気的接触が不良だと、試料帯電の程度が酷くなる。

同一のホルダーに複数の試料を取り付ける場合に、試料の高さをできる限り揃える。

試料の取り付け高さが異なると、分析器による光電子の信号検出感度が異なり、分析領域のサイズも僅かに変化する。

同一のホルダーに複数の試料を取り付ける場合に、試料間の距離をできるだけ離す。

Ion sputtering 時に隣接する他の試料にスパッタされた成分が付着するCross contaminationを発生させる。

粉末試料、絶縁物試料などは特に試料の取り付け方を統一する。試料/粉粒サイズ、帯電防止策、押し固め方、ワッシャの利用など方法を統一する。

試料の取り付け方のばらつきに応じて、試料帯電の程度がばらつく。

励起源の大きさ、分析器のFoVないし分析している領域の大きさを知った上で、試料を準備する。

試料中の観察したい対象物の(観察したくない)周辺領域の信号も検知してしまう。

 

表2-1:Wide scanの推奨実験条件

XPS_UlvacPhi3


表2ー2:Narrow scanの推奨実験条件
XPS_UlvacPhi4

 

較正/キャリブレーション

 

標準サンプル

高純度のAg箔またはAg板を使用してください。

実施者

各装置の担当者が較正を行ってください。

実施頻度

1か月に1回の頻度で較正を行うことを推奨します。

較正方法

較正は清浄なAg表面を用いて行い、エネルギー分解能、感度、ピーク
の束縛エネルギー位置を確認します。手順は以下の通りです:

 

①  アルゴンイオンスパッタを使用してAg表面の清浄化を行います。

②  Ag3d narrow scanスペクトルを、推奨される実験条件(例:X線出力、Pass Energy、Energy Step)を使用して測定します。

③  測定結果から、Ag3d5/2ピークの半値幅を基にエネルギー分解能を確認し、ピーク強度を基に感度を評価します。

④  ピーク位置の確認を行い、必要に応じて装置のエネルギースケールの調整を行います。

 

運用条件(主な消耗品)

1)Quantes用の各パーツの寿命

部品

消耗箇所

交換時期*の目安

X線LaB6フィラメント

X線発生に不可欠な部品であり、長時間使用により劣化します。

通常2~3年程度が目安です。

Ar+銃フィラメント

試料表面のスパッタリングやクリーニングに使用され、使用時間と共に性能が低下します。

約1500時間の使用で交換を推奨します。

GCIB銃フィラメント

ガスクラスターイオンビーム(GCIB)を生成するために使用され、劣化します。

約1500時間の使用で交換を推奨します。

中和銃フィラメント

試料の帯電補正に用いられる部品で、使用頻度に応じて劣化します。

約2000時間の使用で交換を推奨します。

検出器

高電圧がかかる部品で、使用により感度が低下します。

使用環境や使用時間によって適切な電圧は時間を追って上昇します。設定電圧2350Vで交換が推奨されます。

*交換時期は、使用環境や使用時間に依存します。保証数値ではありません。

 

2)QuanteraおよびVersaProbe用の各パーツの寿命

部品

消耗箇所

交換時期*の目安

X線LaB6フィラメント

X線発生に不可欠な部品であり、長時間使用により劣化します。

通常2~3年程度が目安です。

Ar+銃フィラメント

試料表面のスパッタリングやクリーニングに使用され、使用時間と共に性能が低下します。

約1500時間の使用で交換を推奨します。

GCIB銃フィラメント

ガスクラスターイオンビーム(GCIB)を生成するために使用され、劣化します。

約1500時間の使用で交換を推奨します。

中和銃フィラメント

試料の帯電補正に用いられる部品で、使用頻度に応じて劣化します。

約2000時間の使用で交換を推奨します。

検出器

高電圧がかかる部品で、使用により感度が低下します。

使用環境や使用時間によって適切な電圧は時間を追って上昇します。設定電圧2350Vで交換が推奨されます。

*交換時期は、使用環境や使用時間に依存します。保証数値ではありません。

 

参考文献

[1] H. Shinotsuka et al.“Automated information compression of XPS spectrum using information criteria”, J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom., 239, 146903 (2020).
https://doi.org/10.1016/j.elspec.2019.146903