装置編
概要
装置名 |
粉末X線回折装置(PXRD) |
---|---|
製造メーカ |
株式会社リガク |
製造モデル |
SmartLabシリーズ、MiniFlexシリーズ、RINT-Ultimaシリーズ |
対象物 |
半導体、金属、絶縁体、有機、高分子材料など、様々な材料に適用可能 |
測定対象 |
粉体、固体、(薄膜) |
サンプル調整 |
(粉末試料)平均粒径:数mm程度の微粉末 |
測定環境 |
(雰囲気)空気、真空、N2,O2、Ar、Heなど(アタッチメントに依存) |
測定情報 |
結晶相同定・結晶構造・結晶化度・歪量などの解析用情報 |
保有機関
機関名 |
機器ID |
ARIM装置名 |
モデル |
---|---|---|---|
産業技術総合研究所 |
AT-070 |
X線回折装置(XRD) |
RINT-UltimaIII |
千歳科学技術大学 |
CT-015 |
X線回折装置(XRD) |
RINT2000 |
東京科学大学 |
IT-029 |
X線回折装置 |
SmartLab |
京都大学 |
KT-310 |
X線回折装置 |
SmartLab |
九州大学 |
KU-514-1 |
X線回折装置群 |
SmartLab |
分子科学研究所 |
MS-209 |
粉末X線回折 |
RINT-UltimaIII |
物質・材料研究開発機構 |
NM-204 |
多目的X線回折装置_Cu_SSL |
SmartLab 9kW |
物質・材料研究開発機構 |
NM-210 |
温度可変型粉末X線回折装置_Cu1_NTS |
SmartLab 9kW |
物質・材料研究開発機構 |
NM-211 |
高速・高感度型粉末X線回折装置_Cu_ASC_NS3 |
SmartLab 3 |
物質・材料研究開発機構 |
NM-212 |
卓上型粉末回折計_Cu_ASC_NC1 |
MiniFlex 600 |
物質・材料研究開発機構 |
NM-213 |
卓上型粉末回折計_Cu_ASC_NC2 |
MiniFlex 600 |
物質・材料研究開発機構 |
NM-214 |
卓上型粉末回折計_Cr_SCR |
MiniFlex 600_Cr |
物質・材料研究開発機構 |
NM-215 |
卓上型X線回折計_Cu_SMF |
MiniFlex 600 |
奈良先端科学技術大学院大学 |
NR-301 |
X線構造解析装置 |
SmartLab 9kW/IP/HY/N |
名古屋大学 |
NU-002 |
X線粉末回折装置 |
SmartLab 3kW 1D/2D/DSC |
名古屋大学 |
NU-266 |
全自動X線回折装置 |
SmartLab 9kW |
信州大学 |
SH-005 |
試料水平型強力X線回析装置 |
SmartLab 9kW |
東北大学 |
TU-515 |
高出力全自動水平型多目的X線回折装置 |
SmartLab 9kW |
電気通信大学 |
UE-004 |
DSC粉末X線同時測定装置 |
RINT-UltimaIII DSC |
電気通信大学 |
UE-018 |
精密構造解析用X線回折装置 |
SmartLab R/Kα1/RE |
東京大学 |
UT-202 |
高輝度In-plane型X線回折装置 |
SmartLab 9kW |
東京大学 |
UT-203 |
粉末X線回折装置 |
SmartLab 3kW |
東京大学 |
UT-204 |
粉末X線回折装置 |
SmartLab Kα1 |
東京大学 |
UT-451 |
粉末X線回折装置 |
SmartLab Kα1 |
装置の目的
粉末X線回折装置(Powder X-Ray Diffraction, PXRD)は、結晶性材料の構造解析を目的とした装置です。X線を試料に照射し、各原子層から回折された回折線パターンを解析することで、試料の結晶構造や相同定、結晶子サイズ、格子ひずみなどの重要な化学・物理的特性を調べることができます。
PXRDは、簡便且つ非破壊的に結晶性試料の原子配列構造を明らかにすることができる為、半導体やエネルギー材料をも含む材料科学、化学、物理学、鉱物学など物質を扱うあらゆる研究において不可欠なツールで、産業界においても物質の同定や品質管理に幅広く利用されています。
特徴
1. 高精度な相同定
当装置は高い角度分解能を持ち、正確な回折角を測定することができます。これにより、結晶性材料の精密な結晶構造や相同定を可能にし、複数相を含む試料でも各相を正確に識別できます。また、結晶子サイズや格子ひずみの評価も高精度で行えます。
2. 非破壊測定
PXRDは非破壊的な手法であり、試料を破壊することなく測定が可能です。そのため、貴重な試料や複雑な形状を持つ材料の解析に適しています。微量の試料や粉末状のサンプルでも高感度でデータを取得できる点も大きな特長です。
3. 幅広い材料への適応
金属、セラミックス、ポリマー、無機化合物、有機材料など、さまざまな結晶性材料の分析が可能です。また、ナノ材料や複合材料の研究にも広く応用されています。特に、材料の結晶相同定や結晶構造の変化を追跡することに優れており、新素材開発や品質管理に役立ちます。
4. 高精度な結晶構造解析
高精度なデータが得られるために、そのデータを基に結晶構造中の各原子の規則配列(結晶構造)の解析が行えます。この結果から各材料物質の特性(物性)の発現機構を解明し、材料物質の特性向上化への重要な知見を得ることができます。
5. 簡便な試料準備
一般的に測定用試料は、平均粒径が数mm程度の微粉体を用い、試料準備は簡便です。また、実験目的によって様々な形状(バルクなど)の試料でも測定可能です。
6. 温度・環境制御オプション
PXRD装置には温度や雰囲気を制御するオプションがあり、特定の環境下での結晶構造の変化をリアルタイムで追跡できます。これにより、材料の熱的安定性や相転移を調べることができ、応用範囲がさらに広がります。
測定原理
当該装置は、粉末またはバルク試料に特定波長のX線を照射し、回折現象を利用して試料の結晶構造を解析します。X線が試料に入射すると、結晶内の原子によって散乱され、Braggの条件(2d sinθ = nλ、d:格子面間隔、θ:回折角、n:自然数で通常は1、λ:入射X線波長)を満たす特定の角度で、回折X線が観測されます。
(Braggの回折条件の模式図)
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/ X線回折。CC BY 3.0
この回折X線を検出することで、試料の結晶質・非晶質の判定、結晶相の同定、さらに詳細な結晶構造解析が可能です。各結晶面からの回折線幅などの情報から、試料内の結晶子サイズや格子ひずみも評価できます。この技術を用いることで、結晶性材料の物性や構造に関する重要な情報を得ることができます。
推奨測定条件
1. サンプルサイズ
試料ホルダー(例:角型試料ホルダー 17 × 20 × 0.5 mm)に充填できることが推奨されます。試料量が少ない場合は、試料ホルダーからのバックグラウンドを低下させ、より純粋な回折強度を得る為に、Si単結晶などを使用した無反射試料板をご利用ください。
2. 前処理
試料はメノウ製などの乳鉢と乳棒を用いて粉体化してください。理想的な平均粒子径は数μmであり、粒子サイズが均一であることが望ましいです。ただし、有機物や合金系の試料では、粉体化の過程で分子構造や結晶性が損なわれることがありますので注意が必要です。
このような場合、試料合成時に急冷処理(クエンチ)などを行い、粒成長を抑制する対策が適切です。或いは、粉体処理後にはアニール処理などを行い、結晶性を回復させることも有効です。この際、アニール温度や時間には十分注意が必要で、最適条件でない場合、逆に粒成長が促進される可能性があるため、慎重に設定してください。
3. 計測条件
SmartLab Guidance / SmartLab Guidance2 / MiniFlex Guidanceなどのソフトウェアの【推奨測定条件】ボタンをクリックするか、【おまかせ条件】を選択して計測条件を設定してください。
4. 推奨実験条件
スキャン条件やスリット条件は、使用する装置や試料に応じた標準的な推奨設定に従って調整してください。表1、表2を参照することにより、正確で再現性の高いデータを取得できます。
表1: 粉末回折測定における推奨スキャン条件
①集中法光学系(測定法:2θ/θ)の場合
試料の種類 |
データ収集モード |
測定開始角度 |
測定終了角度 |
走査ステップ |
走査速度 |
---|---|---|---|---|---|
無機物質 |
0D(連続) ※1 |
5 |
90 |
0.02 |
4 |
1D(スキャン) ※2 |
5 |
90 |
0.02 |
10 |
|
有機物質 |
0D(連続) ※1 |
2 |
60 |
0.02 |
4 |
1D(スキャン) ※2 |
2 |
60 |
0.02 |
10 |
|
鉱物 |
0D(連続) ※1 |
2 |
70 |
0.02 |
4 |
1D(スキャン) ※2 |
2 |
70 |
0.02 |
10 |
|
金属 |
0D(連続) ※1 |
15 |
120 |
0.02 |
4 |
1D(スキャン) ※2 |
15 |
120 |
0.02 |
10 |
|
不明 |
0D(連続) ※1 |
2 |
90 |
0.02 |
4 |
1D(スキャン) ※2 |
2 |
90 |
0.02 |
10 |
②平行ビーム光学系(測定法:2θ/θ)の場合
試料の種類 |
データ収集モード |
測定開始角度 |
測定終了角度 |
走査ステップ |
走査速度 |
---|---|---|---|---|---|
無機物質 |
0D(連続) |
5 |
90 |
0.02 |
4 |
有機物質 |
0D(連続) |
2 |
60 |
0.02 |
4 |
鉱物 |
0D(連続) |
2 |
70 |
0.02 |
4 |
金属 |
0D(連続) |
15 |
120 |
0.02 |
4 |
不明 |
0D(連続) |
2 |
90 |
0.02 |
4 |
表2:リガク製標準ガラス試料板(有効幅:20 mm)における推奨スリット条件
集中法光学系(測定法:2θ/θ)の場合
ゴニオ半径 (mm) |
測定開始角度 (2θ, °) |
入射スリット(°) |
散乱スリットSS (°)※3 |
受光スリットRS (mm) ※3 |
---|---|---|---|---|
150 |
2 |
※1 |
※2 |
0.03 |
185 |
2 |
※1 |
※2 |
0.03 |
285 / 300 |
2 |
※1 |
※2 |
0.03 |
150 |
5 |
0.25 |
※2 |
0.03 |
185 |
5 |
1/4 |
※2 |
0.03 |
285 / 300 |
5 |
1/6 |
※2 |
0.03 |
150 |
15 |
1 |
※2 |
0.03 |
185 |
15 |
3/4 |
※2 |
0.03 |
285 / 300 |
15 |
1/2 |
※2 |
0.03 |
平行ビーム光学系(測定法:2θ/θ)の場合
ゴニオ半径(mm) |
測定開始角度 (2θ, °) |
入射スリット(mm) |
散乱スリットSS (mm) ※3 |
受光スリットRS (mm) ※3 |
---|---|---|---|---|
285 / 300 |
2 / 5 / 15 |
1 |
Open |
Open |
※1:測定開始角度が2°(もしくはそれ以下)の場合、測定開始角度が5°とした時と比較して、より狭い幅のスリット(およそ半分以下)を使用してください。定量しない場合、測定開始角度が5°の時と同じ入射スリットを使って差し支えありません。
※2:X線検出器が0D型(シンチレーション型など)もしくは多次元型における0Dモード利用の場合は入射スリットと同じ幅にしてください。 X線検出器が多次元型の場合は原則Openとしてください。
※3:受光スリット名称は、以下のごとく装置によって異なりますので、注意が必要です。
RINT-Ultima / MiniFlex |
SmartLab |
---|---|
散乱スリット(SS) |
受光スリット1(RS1) |
受光スリット(RS) |
受光スリット2(RS2) |
【参考資料】
集中法における、入射スリットの幅とゴニオ半径の違いによる試料位置でのX線の照射幅
推奨記録条件
以下の情報を記録することを推奨します。これらのデータはPXRD測定において重要な条件を示し、再現性やデータの正確性を確保するために必要です。特に装置の設定や試料の寸法に関する情報は、今後の解析や比較に役立ちます。
項目 |
説明 |
---|---|
装置名称 |
SmartLab、Ultima IIIなど、使用した装置の名称を記載してください。 |
ゴニオ半径 (mm) |
試料から受光スリット(RS)までの距離をmm単位で記載してください。 |
焦点幅 (mm) |
X線管球のフィラメントの幅に0.1を乗じた値(実効焦点サイズ)をmm単位で入力してください。 |
焦点長さ (mm) |
X線管球のフィラメントの長さをmm単位で記載してください。 |
入射スリットDSの開口角 |
入射スリット(DS)の開口角を角度で記載してください。 |
散乱スリットSSの開口角 |
散乱スリット(SS)の開口角を角度で記載してください。 |
受光スリットRSの幅 (mm) |
受光スリット(RS)の幅をmm単位で記載してください。 |
受光スリットRSの長さ (mm) |
受光スリット(RS)の長さをmm単位で記載してください。 |
入射ソーラースリットの角度 |
入射ソーラースリットの角度を記載してください。ソーラースリットを使用していない場合は「Open」または「無し」と記載してください。 |
受光ソーラースリットの角度 |
受光ソーラースリットの角度を記載してください。ソーラースリットを使用していない場合は「Open」または「無し」と記載してください。 |
試料幅 (W) |
試料の幅をmm単位で記載してください。【試料のディメンジョンについて】を参照してください。 |
試料長さ (L) |
試料の長さをmm単位で記載してください。【試料のディメンジョンについて】を参照してください。 |
試料厚 (T) |
試料の厚さをmm単位で記載してください。【試料のディメンジョンについて】を参照してください。 |
線吸収係数または試料の化学組成 |
試料の線吸収係数を記載してください。単位は1/cmです。※1 線吸収係数が不明な場合は、試料の化学組成※2を記載してください。※3 |
※1:PDXLもしくはSmartLab Studio II Powder XRDプラグインでは、試料の組成を入力すると、線吸収係数が自動で計算され、表示されますので、この値を入力してください。別のソフトウェアなどで線吸収係数を計算した場合は、粉末充填率0.35を乗じた値をここに入力してください。
※2:PDXL、SmartLab Studio II Powder XRDプラグインをお使いでない場合は、試料を構成する化合物の平均組成を入力してください。たとえば、酸化チタンTiO2と酸化亜鉛ZnOの1:1混合物の場合、組成は、TiO2・ZnO、すなわちTiZnO3となります。
※3:試料の組成が秘密事項の場合、主な成分の化学組成で代用しても構いません。また、およその組成でも構いません。硫黄Sや塩素Clよりも重い元素についてはできるだけ省略せずに入力してください。
【試料のディメンジョンについて】
試料板自体の大きさではなく、粉末試料を充填している窪みの大きさ(長さ、幅、深さ)を正確に記載してください。これにより、測定条件の再現性や結果の信頼性を確保することができます。
【回折装置の各部の名称について】
較正/キャリブレーション
標準サンプル |
Si(NIST製SRM640シリーズ)を使用してください。 |
---|---|
実施者 |
各装置の担当者が較正を行ってください。 |
実施頻度 |
1か月に1回の頻度で較正を行うことを推奨します。 |
較正方法 |
較正は室温で行い、毎回同じ標準試料を用いてください。最大2θ角145°まで、step幅は0.02°で測定を行います。この際、X線の出力は装置の定格最大出力(もしくは毎回、同一出力)で行うことが肝要です。測定結果に基づき、X線源の寿命予測や各軸の変位を校正します。 |
運用条件(主な消耗品)
主たる消耗品(X線発生部のみ)について示します。定期的なメンテナンスを行うことで測定条件の再現性や結果の信頼性を確保することができます。
【1】回転式対陰極型の場合
部品 |
消耗箇所 |
交換時期の目安 |
---|---|---|
フィラメント |
X線発生に不可欠な部品であり、使用時間や強度に応じて劣化します。 |
フィラメントの交換時期は通常、使用時間が約1,000時間に達した時が目安です。 |
ターゲット 本体 |
線の生成に使用されるため、表面が損耗します。 |
必要に応じて約1年ごとの交換を推奨します。 |
各種ポンプ系 |
冷却や真空の維持に使用されるポンプ類も定期点検が必要です。 |
ポンプのオイルは6か月ごとに交換し、ポンプ自体は約2年ごとに交換するのが一般的です。 |
冷却水 |
冷却水はX線発生部を冷却し、安定なX線発生を行うために重要です。 |
定期的な水質チェックを行い、6か月ごとに水を交換してください。 |
【2】封入管型の場合
部品 |
消耗箇所 |
交換時期の目安 |
---|---|---|
冷却水 |
冷却水はX線発生部を冷却し、安定なX線発生を行うために重要です。 |
定期的な水質チェックを行い、6か月ごとに水を交換してください。 |
封入管本体 |
使用中に高電圧や熱が加わるため、経年劣化や繰り返し使用によって内部のガスやターゲットの状態が変化し、X線出力の低下や安定性の不具合が発生することがあります。 |
封入管の寿命は、使用条件や頻度によって異なりますが、通常は約2年ごとに交換が必要です。 |