【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.23】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
24UT0261
利用課題名 / Title
Al-Ag合金に導入される変形帯の結晶学的特徴
利用した実施機関 / Support Institute
東京大学 / Tokyo Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials
キーワード / Keywords
Al-Ag合金, 変形帯,イオンミリング/ Ion milling
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
塚田 光基
所属名 / Affiliation
千葉工業大学大学院工学系研究科先端材料工学専攻
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
福川 昌宏
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
近年、LPSO型Mg合金において新しい強化機構であるキンク強化についての研究が進められている。LPSO型Mg合金ではキンク変形による強化が報告されている。これまでに軟質相であるAlと硬質層であるAg₂Alを平行に配列されたAl-Ag合金の曲げ変形と圧縮変形にキンクと類似した変形帯が導入されることが明らかになっており、Al-Agミルフィーユ材料でもキンクの導入により強化が期待される。しかしながら、導入された変形帯の組織の特徴や結晶学的特徴など、変形帯に関する情報が得られていない。本研究ではAl-Ag合金に導入された変形帯がどのような結晶学的特徴を有しているのか、またLPSO型Mg合金や萩原らが研究されているAl-Cu合金と同様なキンク帯なのか明らかにすることを目的とした。
実験 / Experimental
Al(99.99%)とAg(99.99%)を用いて鋳造を行い、Al-30wt%Ag合金を作製した。その後、圧延加工、溶体化処理、時効熱処理を施し、試料を作製した。この圧延材に対して、RDを圧縮軸とする圧縮試験とNDを曲げ方向とし、長手方向がTDに平行な3点曲げ試験を行った。試料表面はバフ研磨により鏡面に仕上げた。また、EBSD測定する試料の一部についてはCP(SM-09010, 09020)を用いた断面作製を行った。なお、圧縮試験および3点曲げ試験前後に光学顕微鏡と走査電子顕微鏡による組織観察とEBSD測定を行い、結晶の方位関係および回転角について解析を行った。
結果と考察 / Results and Discussion
図1に圧縮試験後のNDと垂直な断面のAl母相のIPFマップを示す。図中の白線より上部が変形帯の領域で下部が母相に対応する。母相と変形帯の結晶の伸長方向は幾何学的にθ=57°傾いていた。また、Al母相は結晶粒径が1μm以下の微細組織であることが確認された。極点図から図1の母相と変形帯に対する{001}極点図を作成した。極点図より、結晶方位の集結がみられる。また、図中には代表的な結晶粒の{001}極点を繋いだ線を合わせて示している。極点図の比較から結晶方位は37°回転していたがわかった。図1の個々の領域で変形帯の回転角を測定し、まとめたものを図2に各領域による圧縮試験後で導入された変形帯の回転角度の分布を示す。このグラフより結晶の回転角度は一定ではなく、0°から50°の範囲に広く分布していることが明らかとなった。 図3に3点曲げ試験後のTDと垂直な断面のAl母相のIPFマップを示す。図中の赤い点線内が変形帯の領域でその両端が母相に対応する。母相と変形帯の結晶の伸長方向は幾何学的に85°傾いていた。極点図にそれぞれ、図3の母相と変形帯に対応する{001}極点図を作成した。極点図の比較から結晶方位は57°回転していたが分かった。図3の個々の領域で変形帯の回転角を測定し、まとめたものを図4に各領域による圧縮試験後で導入された変形帯の回転角度の分布を示す。このグラフより結晶の回転角度は一定ではなく、20°から60°の範囲に広く分布していることが明らかとなった。 図1で示した圧縮試験で生じた変形帯と母相の幾何学的な傾きと、極点図で示した結晶の方位回転の回転角は一致しておらず、幾何学的な傾きの方が大きいことが分かる。これは、極点図で示した3点曲げ試験で導入された変形帯でも同じ傾向を示した。層状組織の傾きの変化より、変形帯では巨視的にせん断変形している。そのせん断変形を達成するために個々の結晶粒では多重すべりを生じ、その結果として結晶回転が生じたと考えられ、微視的な結晶回転は巨視的なせん断変形で生じる傾きとは異なっているといえる。 図2と図4で示した変形帯の回転角度の分布より圧縮と3点曲げでは、それぞれ0°から50°、20°から60°の範囲で広く分布していた。Al-Cu合金の圧縮も2°から60°の範囲で広く分布していることが報告されている。つまり、Al-Ag合金の圧縮と3点曲げはAl-Cu合金のキンク帯と特徴が類似していると考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 圧縮試験後のIPFマップ像
図2 圧縮試験で導入された変形帯のMinimum of Rotation angleの分布
図3 3点曲げ試験後のIPFマップ像
図4 3点曲げ試験で導入された変形帯のMinimum of Rotation angleの分布
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
参考文献(1) 河村能人:From Tech Review,20号,2011年,56-61.(2) 稲村智成:まてりあ,173巻,2019年,270-280.(3) 古賀紀光:まてりあ,55巻,2016年,267-270.(4) 山崎重人:まてりあ,195巻,2020年,25-34.(5) 上田亮、志澤一之:「材料」(Journal of the Society of Materials Science, Japan),64巻,2015年,295-302.(6) 谷友樹:化学と教育,70巻3号,2022年,138-141.(7) 鈴木清一:エレクトロニクス実装学会誌,13巻6号,2010年,469-474.(8) 科学研究費助成事業:https://www.mfs-materials.jp/,(accessed 2024-11-29)(9) 岸田恭輔:まてりあ,62巻10号,2023年,680-689.(10) Orange science:https://www.orangescience.co.jp/3-point-bend-testing,(accessed 2025-1-6)(11) 堀川敬太朗:まてりあ,62巻4号,2023年,244-252.(12) 金子朝子,高須久幸:表面技術協会,66巻12号,2015年,31-35.(13) 中村佳澄, 網田仁, 高橋早苗, 松本志磨子:Journal of Surface Analysis,15巻1号,2008年,50-58.(14) 鈴木清一:株式会社TSLソリューションズ(神奈川県 相模原市 緑区 西橋本5-4-30SIC2-401),2009年.(15) 榊正慶:千葉工業大学先端材料工学科 令和2年度卒業論文,2021年,1-33.(16) 萩原浩司,徳永悠子,大澤修平,上道翔平,カイ・グアン,江草大輔,阿部英二:International Journal of Plasticity,158巻,2022年,1-18.(17) 萩原浩司,徳永悠子,西浦勝明,上道翔平, 大澤修平:材料科学・工学A,825巻,2021年,1-12.(18) 眞山 剛,只野裕一:まてりあ,61巻9号,2022年,558-562. (19) 吉田 英雄,内田 秀俊:軽金属. 45(1995)41-55.謝辞本研究を進めるにあたり、千葉工業大学工学研究科先端材料工学専攻の寺田大将准教授には多くのご指導ご鞭撻のほど賜りました。心より感謝の意を表します。また、科学研究費・新学術領域研究(研究領域提案型)「ミルフィーユ構造の材料科学」(No.18H05483)の助成により実施されたこと、実験装置を借りるにあたり文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号:JTMXT1224UT0261)の支援を受けたことに感謝いたします。本論文をご精読いただき、貴重なご意見をいただきました千葉工業大学大学院の小澤俊平教授、田村洋介教授に感謝の意を表します。お忙しい中研究にご協力していただいた寺田研究室の皆様、ミルフィーユ構造の材料科学の皆様、東京大学のマテリアル先端リサーチインフラの皆様に心より感謝申し上げます。 最後になりましたが私に関わっていただいた皆様に感謝の意を表します。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 塚田光基,寺田大将:「ミルフィーユ組織を有するAl-Ag合金における種々の変形モードによるキンク導入と結晶方位学的特徴」、日本金属学会2023年(173回)秋期講演大会、ポスターセッション、2023年9月19日。
- 塚田光基,寺田大将:「ミルフィーユ組織を有するAl-Ag合金に変形帯の結晶学的特徴」、日本金属学会2024年(175回)秋期講演大会、ポスターセッション、2024年9月18日。
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件