利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.04.29】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24UT1025

利用課題名 / Title

X線光学素子開発のための新たな微細加工プロセスの検討

利用した実施機関 / Support Institute

東京大学 / Tokyo Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials(副 / Sub)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials

キーワード / Keywords

X線顕微鏡、生細胞観察,スパッタリング/ Sputtering,リソグラフィ/ Lithography,光リソグラフィ/ Photolithgraphy,電子線リソグラフィ/ EB lithography,膜加工・エッチング/ Film processing/etching,ダイシング/ Dicing,電子顕微鏡/ Electronic microscope,光学顕微鏡/ Optical microscope,X線回折/ X-ray diffraction,放射光/ Synchrotron radiation,バイオアダプティブ材料/ Bioadaptive materials,生体イメージング/ In vivo imaging,バイオセンサ/ Biosensor,細胞培養デバイス/ Cell Culture Device,ナノ粒子/ Nanoparticles


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

木村 隆志

所属名 / Affiliation

東京大学物性研究所

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

竹尾陽子,島村勇徳,櫻井快,吉永享太,中田勇宇,永山裕一

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

藤原誠,水島彩子,澤村智紀

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術相談/Technical Consultation


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UT-500:高速大面積電子線描画装置
UT-503:超高速大面積電子線描画装置
UT-505:レーザー直接描画装置 DWL66+2018
UT-506:枚葉式ZEP520自動現像装置
UT-606:汎用平行平板RIE装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

本研究課題では、新たなX線顕微鏡を構築するための超精密X線光学素子の開発・評価に取り組んでいる。可視光と比較して波長の3桁以上短いX線を制御するために、X線光学素子には原子レベルに匹敵する非常に高い精度での設計・形状作製が要求される。武田先端知スーパークリーンルームの有する先端半導体プロセス装置群を活用し、X線顕微鏡での使用に耐えるX線透過薄膜やマイクロ流体デバイス、超高刻線密度回折格子の作製を行っている。

実験 / Experimental

本年度は特にSPring-8/SACLAで開発した軟X線顕微鏡で使用するための細胞計測用の試料ホルダの開発に取り組んだ。
軟X線は波長が数ナノメートル程度の電磁波であり、炭素や窒素、酸素といった軽元素の内殻電子エネルギー準位に相当するため、細胞中の元素や電子軌道を選択的に高空間分解能観察することができる。こうした特性を活かして、生細胞中の炭素分布や、窒素・酸素の結合状態分布の可視化を試みた。
軟X線は軽元素との相互作用が大きいために、可能な限り試料厚さを薄くするとともに超高真空中での計測を行う必要がある。そのため、本課題では200 nm厚の窒化ケイ素薄膜間に、数マイクロメートル厚の哺乳類細胞を培養液ごと封止可能な生細胞封入治具を新たに開発した。図1に生細胞封入治具の写真と断面図を示す。従来開発・利用してきたバクテリア封入治具と異なり、哺乳類細胞は培養液濃度や温度・圧力など周囲環境の変化に対して敏感であるため、温度フィードバック・圧力調整機構などを組み込み、細胞に対するストレスを少なくしている。封入後の哺乳類細胞は半日以上に亘って健全な状態を維持しており、軟X線顕微鏡で計測するのに十分な性能を有していることを確認した。
また、神経細胞中の軽元素化学状態をマッピングするために、窒化ケイ素薄膜上に当該細胞(ND7/23)を培養・固定するための条件検討も行った。ヘキサメチルジシラザンによる薄膜表面の改質処理を行うことにより、細胞が薄膜上で適切に培養・固定可能であることを確認した。

結果と考察 / Results and Discussion

軟X線顕微鏡での細胞観察実験は、兵庫県播磨のSPring-8/SACLAの高輝度放射光を利用して実施した。
生細胞の観察では、X線の照射ダメージによる構造損傷問題を回避するため、X線自由電子レーザー施設SACLAから発振される数十フェムト秒幅の軟X線レーザーによる単パルスイメージングを行った。図2に軟X線レーザー単パルスで計測された哺乳類細胞(CHO-K1)の像を示す。明瞭に細胞の概形を捉えられているとともに、吸収端を利用することで炭素の分布を強調して可視化することに成功した。細胞核中には核小体と想定される密度の高い領域とともに、可視光顕微鏡では余り観察されない核膜を核小体に結ぶ網目状の構造も捉えられており、軟X線による顕微観察で細胞生物学へ新たな知見をもたらせることを示すことに成功した。
また神経細胞中の軽元素化学状態マッピングでは、化学固定処理をしたげっ歯類神経芽細胞腫細胞株であるND7/23の計測を試みた。SPring-8の軟X線ビームラインであるBL07LSUを利用して、窒素吸収端・酸素吸収端の分光イメージングを行った結果を図3に示す。単色の軟X線像では観察できない様々な細胞小器官を可視化することに成功した。今後、元素・化学状態選択性、高分解能、ラベルフリーといった特徴を活かし、さらに生細胞観察を組み合わせることで、従来の顕微技術では捉えることの難しかった細胞代謝の新たな側面を捉えることを目指していく。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 軟X線顕微鏡用の哺乳類生細胞封入ホルダ。透過力の低い軟X線で計測するために、数マイクロメートル厚の細胞試料溶液を200ナノメートル厚の窒化ケイ素薄膜で挟み込む構造をしている。本構造の中で半日以上に亘って健全な構造の哺乳類生細胞を保持可能であることを確認した。



図2 X線自由電子レーザーで計測した哺乳類生細胞。a, bはそれぞれ単パルス、複数パルスで計測した軟X線像。 c, dは細胞核領域の拡大図。軟X線の吸収端を利用することで、細胞内の炭素分布を強調して可視化している。図中のスケールバーは5マイクロメートル。



図3 軟X線分光顕微鏡による神経細胞内の軽元素化学状態マッピング。SPring-8軟X線ビームラインBL07LSUにおいて開発した顕微鏡によって、げっ歯類神経芽細胞腫細胞株であるND7/23内の窒素・酸素それぞれの化学状態の違いを50 nm分解能で可視化することに成功した。単一波長での軟X線像では捉えられない様々な微細構造が明らかになっており、元素選択性・高分解能・ラベルフリーといった特性を活かした細胞生物学への貢献が期待される。


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

・プレスリリース「100兆分の1秒の一瞬で生きた細胞の姿を捉えることに成功 ―X線自由電子レーザーを利用した新たな軟X線顕微鏡を開発―」(2024/05/24 東京大学、理化学研究所、高輝度光科学研究センター)https://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=26275
「軟X線で細胞内の「化学地図」を描く ―新開発の軟X線分光顕微鏡で窒素・酸素の化学状態を 詳細に可視化することに成功―」(2025/02/04 東京大学、理化学研究所、高輝度光科学研究センター)
https://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=26275 ・研究助成
本研究は、JSPS科研費(20H04451、21K20394、23H01833、23KF0019)、JSTさきがけ(JPMJPR1772)、JST CREST(JPMJCR2235)、村田学術振興・教育財団、精密測定技術振興財団、東京大学卓越研究員制度の支援により実施されました。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Kai Sakurai, Chemical-state imaging of a mammalian cell through multi-elemental soft x-ray spectro-ptychography, Applied Physics Letters, 126, (2025).
    DOI: https://doi.org/10.1063/5.0237804
  2. Satoru Egawa, Observation of mammalian living cells with femtosecond single pulse illumination generated by a soft X-ray free electron laser, Optica, 11, 736(2024).
    DOI: https://doi.org/10.1364/OPTICA.515726
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. ①木村隆志 ②高精度回転体ミラーを活用した軟X線顕微分光イメージング技術の開発 ③Optics & Photonics Japan 2024 ④電気通信大学 ⑤2024/11/29-12/1
  2. ①Takashi Kimura ②Development and Application of X-ray Spectromiroscopies using Achromatic Wolter Mirror Optics ③APS/CNM Users Meeting 2024 ④Argonne National Laboratory, Illinois, USA ⑤2024/5/6-10
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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