利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.06】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24OS0024

利用課題名 / Title

機能材料の微細状態分析

利用した実施機関 / Support Institute

大阪大学 / Osaka Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

電子顕微鏡/ Electronic microscope,二次電池/ Secondary battery


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

橘田 晃宜

所属名 / Affiliation

産業技術総合研究所

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

OS-003:200kV原子分解能走査透過分析電子顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 リン酸鉄マンガンリチウム (LiFe1-xMnxPO4) は、リン酸鉄リチウム (LiFePO4) に比べて反応電位が高いことから、より高エネルギー密度のポリアニオン系リチウムイオン電池正極材料として期待されている。他方で、鉄の一部がマンガンで置換されている効果、例えば粒子内における元素の分布様態と材料の安定性の相関などは、あまり深く調査されていない。本研究では、走査型透過電子顕微鏡 (STEM) と電子エネルギー損失分光法 (EELS) を用い、市販の LiFe0.4Mn0.6O4 正極活物質内部における元素濃度分布と、それに基づいた材料の化学状態分布の実空間解析を行った。

実験 / Experimental

 分析試料であるリン酸鉄マンガンリチウム (LiFe0.4Mn0.6O4, 以下 LMFP) は、宝泉株式会社より購入した。試料を十分に脱水した炭酸ジメチル溶媒に分散し、カーボン支持膜付きの銅マイクログリッドに分散液を滴下して観察用試料とした。透過電子顕微鏡は JEM-ARM 200F (JEOL) を用い、加速電圧 200 kV の STEM モードで観察を実施した。また DualEELS 分析はポストカラム型磁場セクタイメージングフィルタ (GIF) によって実施し、高解像度カメラ (K3) によって 0.18 eV / channel の条件で分散スペクトルを取り込んだ。この条件で得られた Zero-Loss Peak (ZLP) の半値幅は約 1.0 eV であった。スペクトラムイメージングは 3 nm のピクセルステップで 60 × 40 ピクセル解像度で実施した。各ピクセルにおける露光時間は 0.05 s とし Low-Loss と Core-Loss のそれぞれにおいて Live Time 0.1% および 100 % にて各領域のスペクトルを同時に取得した。

結果と考察 / Results and Discussion

 図1(a) には、試料である LMFP 粒子の典型的な暗視野 STEM 像を示した。粒子のサイズは数 100 nm から数 µm に至るまで様々であったが、どの粒子に関しても殆ど同様のスペクトル情報が得られた。さらに、図中の長方形で囲った分析領域から得られた典型的な Low-Loss スペクトルと Core-Loss スペクトルを、それぞれ図 1(b) と (c) に示した。図1(b) に示した Low-Loss 領域のスペクトルには約 60 eV 付近に Fe と Mn に由来する M-edge のピークが観察された。これらのピークは Li K-edge ピークと完全に重畳するため、本試料では Li の定量的な分析が困難であった。図1(c) に示した 130 eV から 730 eV までの広領域スペクトルでは、リン (P), 炭素 (C), 酸素 (O) および Mn と Fe までの各元素の K-edge および M-edge ピークが明瞭に観察された。さらに 197 eV 付近に確認されたピークはホウ素 (B) に由来すると考えられた。ここでホウ素の強度は、粒子全体で均質に確認されたことから、偏析した何らかの不純物ではなく、ドーパントとして試料中に存在している可能性が示唆された。また、炭素 C K-edge は粒子の表面で顕著に確認されたことから、粒子に導電性を付与するための添加剤に由来すると考えられた。 図2には O K-edge, Mn L3,2-edge および Fe L3, 2-edge を拡大して示した。さらに粒子中の典型的な領域から取り出した二つのスペクトル (赤色とシアン色) を並べて示した。両スペクトルにおいて O K-edge および Mn L3,2-edge には殆ど変化がないが、挿入図に示す通り Fe L3,2-edge には明確なエネルギーシフトが確認された。このエネルギーシフト値の大きさは約 1.4 ~ 2.0 eV であり、それぞれ Fe2+ と Fe3+ に相当すると考えられた。 さらに図3(a) ~ (c) には Fe と Mn の元素濃度分布、Fe3+, Fe2+ の価数分布像、および炭素の強度像を示した。図3(a) に示した Fe / (Fe + Mn) 分布像からは、Fe と Mn の濃淡に明瞭な分布が存在していることが見て取れる。特に Fe-rich/poor な領域と Mn-poor/rich な領域が対応しており、それぞれの元素濃度が丁度相反関係にあることが理解できた。この分布像と図3(b)に示した鉄の価数分布像は対応しており、特にFe-rich (Mn-poor) な領域はFe3+-rich であることが確認できた。一般的に Fe2+ は (3d6) の電子配置を取り、不安定である。そのため大気中で酸化されやすく、より安定な Fe3+ (3d5) になりやすいことが知られている。一方で、炭素被覆された領域は、大気との接触が緩和されるため Fe2+ の状態を維持しやすい。ここで図3(b) と (c) の対応を見ると、炭素被覆が顕著な領域でも Fe3+-rich になっていることが確認できる。すなわち本試料においては、Fe3+ / Fe2+ の濃淡分布は、炭素被覆よりも Fe と Mn の粒内濃度分布に、より強い影響を受けると考えられた。 鉄を含む活物質内の Fe2+ から Fe3+ への自然酸化は、グラファイトを負極とした全電池における充電容量の低下につながり、電池の実効的なエネルギー密度を減少させる要因となる。したがってこの自然酸化を防ぐ材料設計が重要となる。図3(a) と (b) で示した通り、鉄の自然酸化は、粒子内部における元素の偏析に影響を受ける。ここでは Fe-rich (Mn-poor) な領域においてFe3+-rich であることが明らかとなった。この物理化学的な原因は、不明ではあるものの、少なくとも Fe の濃度偏析の抑制が Fe3+ への自然酸化の抑制に繋がると考えられた。したがって材料粒子内部における Fe と Mn のより均質な固溶、理想的には原子レベルでの完全な均質固溶が、鉄の自然酸化を防ぐ材料設計の指針であると考えられた。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Figure 1 EELS observations of the sample in a typical field of view. (a) ADF-STEM image of the sample. The region for spectrum imaging is shown by the green rectangular solid line. (b) EELS of the zero-loss and low-loss regions. The M edges of Mn and Fe were in the energy region of 40 to 60 eV, hiding the Li K-edge. (c) EELS of the core-loss regions between 130 and 740 eV. The unknown EEL peak indicated by an asterisk (*) is attributed to some boron-based impurities.



Figure 2 Extracted EELS of regions 1 (blue) and 2 (red) in the typical part of spectral imaging shown in the inset. The enlarged Fe L3,2 edge between 700 and 730 eV is shown in the inset.



Figure 3 Reconstructed EELS mapping of the acquired spectral image. (a) Elemental intensity ratio of Fe/(Fe + Mn) electron counts. The color map was based on the linear scale intensity of the color bar. (b) EELS map reconstructed from the coefficient for the MLLS fitting of spectra 1 (Fe2+-rich) and 2 (Fe3+-rich), shown in Fig. 2. (c) Carbon intensity mapping of the corresponding spectral image. The corresponding areas 1 and 2 in Fig. 2 are shown by a black solid line.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Mitsunori KITTA, Chemical Fluctuation in Olivine-type LiFe0.4Mn0.6PO4 Single Particle as Confirmed by Electron Energy-loss Spectroscopy Mapping, Electrochemistry, 92, 127003-127003(2024).
    DOI: https://doi.org/10.5796/electrochemistry.24-00105
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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