利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.12.09】【最終更新日:2025.12.04】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24NM5375

利用課題名 / Title

水素添加したFe-Cr-Niオーステナイト鋼における塑性変形挙動変化の機構解明

利用した実施機関 / Support Institute

物質・材料研究機構 / NIMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

ARIM半導体基盤PF関連課題 / Related to ARIM-SETI

指定なし/No Designation

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

鉄鋼材料, 水素脆化, オーステナイト鋼, 塑性変形, 変形双晶


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

小川 祐平

所属名 / Affiliation

物質・材料研究機構

共同利用者氏名 / Names of Collaborators Excluding Supporters in the Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Supporters in the Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NM-505:200kV透過電子顕微鏡
NM-204:多目的X線回折装置_Cu_SSL


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

水素ステーション等の高圧水素ガス関連インフラで利用される構造用鉄鋼材料にとって,水素脆化(水素原子の侵入に伴う強度・延性の劣化)の克服は喫緊の技術課題のひとつである.著者らは近年,Fe-Cr-Niを主成分とするFCC結晶構造のオーステナイト鋼に高濃度の水素を添加すると,従来の水素脆化の常識に反して強度と延性が大きく向上する現象を見出した(1)(2).この強度と延性向上の一因は,水素が材料の塑性変形過程において変形双晶(原子の集団的せん断変形)と呼ばれる特殊な変形モードを誘起する効果にあることが,著者らのこれまでの研究において明らかとなっている(1)(2).一方,この水素誘起の変形双晶の発生・発達が,微視的にどのような機構で材料の変形応力上昇に寄与するかについては,詳細が明らかとなっていない.本研究課題ではこの点の解明のため,水素添加後の塑性変形によって発生した双晶のミクロな構造を透過型電子顕微鏡により観察するとともに,材料の巨視的強度を支配する変形応力成分の測定を行った.

実験 / Experimental

市販のFe-Cr-Ni基オーステナイト系ステンレス鋼および純三元系の高純度Fe-Cr-Ni合金数種類を用意し,圧力10~100 MPa,温度543 Kの高温・高圧水素ガス中に200 時間曝露することで~7500 at ppmの水素を一様に侵入させた引張試験片(直径 4 mm)を用いて,室温(295 K)下で機械的性質の測定を行った.引張試験中は一定量のひずみ毎に部分的な除荷を行い,バウシンガー効果による逆塑性流動現象(3)を利用して,変形応力に占める有効応力(Effective stress)成分と背応力(Back stress)成分を分離した.引張試験後,真ひずみ30%程度まで変形させた試験片から直径3 mmのディスク状試料(ディスク面は引張軸と直角)を採取し,中央部をツインジェット電解研磨により薄膜化した後に透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた変形組織の観察を加速電圧200 kVで実施した.また,結晶構造変態など,変形双晶以外の因子による変形応力への寄与をスクリーニングするため,一部の試料に対してはX線回折法を用いた相状態の同定を併せて行った.

結果と考察 / Results and Discussion

 Fig. 1に,市販のFe-25Cr-20Niオーステナイト鋼(SUS310S)における水素添加(7500 at ppm)および未添加状態での応力-ひずみ特性,および応力成分の分離から得られた背応力と真ひずみの関係を示す.変形初期においては水素添加材と未添加材とで背応力成分に差は見られないが,水素添加材の変形応力は未添加材よりも有意に大きい.この変形初期における応力上昇は,水素原子が引き起こす固溶強化(結晶格子中に侵入した水素原子が転位運動の障害物として作用する効果)に由来したものである.一方,真ひずみが20%を超える変形後期では,未添加材に対して水素添加材における背応力成分の上昇が著しい.このことから,水素は変形初期において固溶強化による有効応力成分の上昇を通じて高強度化を引き起こすが,変形後期では背応力の増加という別の機構を重畳させる形で高強度化に寄与していることが伺える. 以上の背応力成分の変化と水素が誘起する変形双晶との関連を調べるため,真ひずみ30%程度における水素添加材中の変形組織をTEM観察した結果をFig. 2に示す.Fig. 2は{111}結晶面上に発生した板状の変形双晶が画像の視野に対して垂直となるように観察方位を調整した上で撮像したものであるが,1枚あたりの厚さが数10 nmの極めて希薄な双晶群が積層された変形双晶のバンドルが見受けられる.また,双晶バンドルの周囲は,高密度の転位で構成されたセル組織で埋め尽くされていることが確認され,同様の変形双晶と転位セルの共存を伴う変形組織は試料中の多くの部分において観察された. 一般に変形双晶に由来する高強度化は,変形双晶と母相との界面が転位の運動をブロックする障壁として働くことによるDynamic Hall-Petch効果や,転位の平均自由行程の減少(有効結晶粒径の減少)を通じて議論されることが多い(4).しかしながら,周囲が密な転位セルで覆われた変形組織を伴うFig. 2のようなケースの場合,個々の転位が統計的に最も高頻度に直面する運動障壁は転位セル壁であるため,これら従来論の適用が難しい.一方,数10 nmの希薄な双晶が積層された双晶バンドルでは,その内部において転位運動の阻害効果は極めて大きいと予測されることから,双晶バンドルは母相中に埋め込まれた硬質な第2相のような形で機能することが推測される.すなわち,水素添加に伴う双晶誘起とそれによる高強度化は,母相と変形双晶バンドルの混合組織が軟質相と硬質相から成る複合材料のように振舞うことによるものであることが示唆される.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Fig. 1  True-stress strain curves (solid symbols) of non-charged and hydrogen-charged (7500 at ppm) Type310S austenitic steel at room temperature. The back stress component in each sample is also plotted with open symbols.



Fig. 2   Bright-field and dark-field TEM images of the deformation twin and surrounding dislocation substructures in hydrogen-charged (7500 at ppm) Type310S austenitic steel at a true strain around 30%.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

<参考文献>
(1) Ogawa, Y., Hosoi, H., Tsuzaki, K., Redarce, T., Takakuwa, O., & Matsunaga, H. (2020). Hydrogen, as an alloying element, enables a greater strength-ductility balance in an Fe-Cr-Ni-based, stable austenitic stainless steel. Acta Materialia, 199, 181-192.(2) Nishida, H., Ogawa, Y., & Tsuzaki, K. (2022). Chemical composition dependence of the strength and ductility enhancement by solute hydrogen in Fe–Cr–Ni-based austenitic alloys. Materials Science and Engineering: A, 836, 142681.
(3) Dickson, J. I., Boutin, J., & Handfield, L. (1984). A comparison of two simple methods for measuring cyclic internal and effective stresses. Materials Science and Engineering, 64(1), L7-L11.
(4) De Cooman, B. C., Estrin, Y., & Kim, S. K. (2018). Twinning-induced plasticity (TWIP) steels. Acta Materialia, 142, 283-362.

<謝辞> 本研究は、JSPS科研費 若手研究(課題番号:24K17180)の支援により実施され たものである。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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