【公開日:2025.07.25】【最終更新日:2025.07.10】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22KT0040
利用課題名 / Title
ナノコンポジット蛍光薄膜の構造解析
利用した実施機関 / Support Institute
京都大学 / Kyoto Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
ARIM半導体基盤PF関連課題 / Related to ARIM-SETI
指定なし/No Designation
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
電子エネルギー損失分光(EELS),4D-STEM,電子顕微鏡/Electron microscopy,コンポジット材料/ Composite material
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
斉藤 光
所属名 / Affiliation
九州大学 先導物質化学研究所
共同利用者氏名 / Names of Collaborators Excluding Supporters in the Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Supporters in the Hub and Spoke Institutes
倉田 博基
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
KT-403:モノクロメータ搭載低加速原子分解能分析電子顕微鏡
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
Cs4PbBr6の母相中にCsPbBr3ナノ粒子が埋め込まれた複合材料(CsPbBr3/Cs4PbBr6ナノコンポジット)からのフォトルミネセンス(PL)量子収率は約95 %を示すことが報告されている[1]。さらに我々は、Hanbury Brown-Twiss干渉系を組み合わせた電子顕微鏡装置[2]によって、この複合材料からサブナノ秒のカソードルミネセンス(CL)減衰を観測している。このように、高い発光効率を有するとともに高速CLが誘起されるCsPbBr3/Cs4PbBr6ナノコンポジットは、高速電子検出用のシンチレータとして機能する可能性がある。CL効率のさらなる向上や高速減衰のメカニズムの解明のためには、CsPbBr3/Cs4PbBr6ナノコンポジットの構造(CsPbBr3ナノ粒子のサイズ、結晶構造、空間分布など)を理解する必要がある。しかしながら、当該試料は耐電子線性に乏しいため、電子顕微鏡による構造解析は行われていない。本研究では、CsPbBr3/Cs4PbBr6ナノコンポジットの構造を正しく理解するために、微弱なプローブ電流条件下で4D-STEM測定、および電子エネルギー損失分光(EELS)測定を実施した。
実験 / Experimental
Ya-Meng Chenらの方法[1]でCsPbBr3/Cs4PbBr6ナノコンポジットを合成し、熱蒸着によりこれを薄膜化した。CsPbBr3/Cs4PbBr6ナノコンポジットは電子線照射による損傷を受けやすく、電子顕微鏡による原始分解能観察は困難であった。そこで本研究では、損傷を抑えるために微弱プローブ電流値条件下(2.3 pA, 300 kV)で4D-STEMを取得することにより、母相のCs4PbBr6の結晶構造、およびCsPbBr3微粒子の結晶構造やサイズを評価した。一方、4D-STEMでは、回折条件を満たす粒子しか検出することができないため、Cs4PbBr6中に含まれる全てのCsPbBr3微粒子を観測できない。埋め込まれたCsPbBr3微粒子の分布や密度を評価するために、加速電圧60 kV、プローブ電流値1.6 pAの条件でEELS-STEM測定を行い、Cs4PbBr6とCsPbBr3に由来するスペクトルを示す領域をそれぞれ抽出することで両者の空間分布について調査した。
結果と考察 / Results and Discussion
Fig.
1は、液相合成したCsPbBr3/Cs4PbBr6ナノコンポジット粒子を対象として、微弱プローブ電流値条件下(2.3 pA)での4D-STEM測定結果である。合成物は、数10 nm ~ 数100 nmの粒径の三方晶系Cs4PbBr6
(空間群: Rc)をマトリックスとして、その中に約10 nmの立方晶系CsPbBr3(空間群: Pmm)微粒子が埋め込まれた構造であることがわかった。次に、Cs4PbBr6中のCsPbBr3微粒子の分布を見積もるために、CsPbBr3/Cs4PbBr6ナノコンポジットを熱蒸着により薄膜化して試料の厚さを均質にした。この時、大気中の酸素や水分による試料の劣化を防ぐために、薄膜をSiO2で被覆した。Fig. 2 はCsPbBr3/Cs4PbBr6ナノコンポジット薄膜の4D-STEM測定結果である。薄膜は百数十 nm以下の粒径のCs4PbBr6と10 nm ~ 20 nm程度のCsPbBr3によって構成されており、両者とも蒸着源であるCsPbBr3/Cs4PbBr6ナノコンポジット粒子と同じ結晶構造であることが確かめられた。また、本実験条件では、粒子・薄膜とも4D-STEM測定時の電子線による損傷は確認されなかった。したがって、Cs4PbBr6中に含まれるCsPbBr3微粒子のサイズや結晶構造を特定するための手段として4D-STEMは有効であると言える。一方、4D-STEMでは回折条件を満たしたCsPbBr3微粒子しか検出できないため、その分布や密度を正確に見積もるのは困難であった。
EELSスペクトルは、4D-STEMのような回折条件の影響を受けないため、全てのCsPbBr3微粒子を検出することができると考えられる。マトリックス中に含まれる全てのCsPbBr3微粒子を検出し、その分布や密度を見積もるために、CsPbBr3/Cs4PbBr6ナノコンポジット薄膜に対して、加速電圧60 kV、プローブ電流値1.6 pA、エネルギー分解能50 meVの条件でEELS-STEM測定を行なった(Fig. 3)。観測されたEELSスペクトルは、Cs4PbBr6(Fig. 3(c))とCsPbBr3(Fig. 3(d))に対応する2成分のスペクトルに分解できた。さらに、CsPbBr3に対応するスペクトルを示す測定点を抽出することによって、マトリックス中に10 ~ 20 nmのサイズのCsPbBr3が高密度に埋め込まれていることが示された(Fig. 3(b))。また、4D-STEMと同様、EELS測定による試料の損傷は確認されなかった。このように、EELS-STEM測定では電子線損傷を抑えつつ、Cs4PbBr6マトリックス中に埋め込まれている全てのCsPbBr3微粒子を検出可能であることが確かめられた。微弱プローブ電流条件下で取得された、4D-STEMとEELSスペクトルによるCsPbBr3/Cs4PbBr6ナノコンポジットの構造解析結果は、我々が観測したサブナノ秒の高速CLの原理を明らかにするための極めて重要な情報である。さらに、これらの情報は高速電子検出用シンチレータなどの高性能な光学材料の開発に繋がると示唆される。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig. 1 (a) ADF-STEM image of CsPbBr3/Cs4PbBr6 nanocomposite particle and (b) diffraction pattern from the rectangular area in (a). (c) Virtual DF image by using intensity of the diffraction spot indicated by the rectangular area shown in (b).
Fig. 2 (a,d) ADF-STEM image of CsPbBr3/Cs4PbBr6 nanocomposite thin film and (b,e) diffraction pattern from the rectangular area in (a) and (d). (c,f) Virtual DF image by using intensity of the diffraction spot indicated by the rectangular area shown in (b) and (e).
Fig. 3
(a) ADF-STEM image of a CsPbBr3/Cs4PbBr6 nanocomposite
thin film and (b) CsPbBr3 map derived by EELS mapping. (c,d) EELS
spectra corresponding to Cs4PbBr6 and CsPbBr3
extracted from the areas indicated in (b).
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件