利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.04.15】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24QS0119

利用課題名 / Title

溶接材の2次元残留応力場の安定性の研究

利用した実施機関 / Support Institute

量子科学技術研究開発機構 / QST

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

残留応力マップ, 溶接・接合, 二重露光法, 残留応力,X線回折/ X-ray diffraction,放射光/ Synchrotron radiation,溶接技術/ Welding technology


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

鈴木 賢治

所属名 / Affiliation

新潟大学教育研究院人文社会科学系

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

三浦 靖史,豊川 秀訓,荒川 悦雄

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

城 鮎美

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

QS-141:高温高圧プレス装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 申請者らが発案した二重露光法(DEM)よって測定が困難であった溶接材の詳細な残留応力マップ作成を実現してきた.その結果,測定された小口径溶接配管の残留応力のマップは,最近原子力発電で発生している応力腐食割れの発生箇所と一致しており,本手法は応力腐食割れの解明と対策に重要な示唆を与えた.小口径溶接配管の数値計算の判定に,実測残留応力の結果が欠かせないものになっている.QSTの BL14B1 で開発された二重露光法は,まさに原子力発電設備の重要な支えとなり,今後の活躍が期待されている.
 さて,二重露光法の課題として測定時間の短縮の課題が残されている.また,よりマイクロビームX線でより高い空間分解能を得たいという産業界からの強い希望もある.高い空間分解能の要望は,それでいて広い測定領域を要求されるので,結果として測定時間の短縮を求められる.これまで板厚 5 mm の試料を用意していたが,板厚をさらに薄くして測定効率を上げる現実的な検討が求められる.しかしながら,板厚を薄くしても平板の残留応力が維持されるのかについて,明確な指標がこれまで示されていない.「2 次元残留応力場の安定性」という学術的にも重要なテーマが未着手である.本申請では,同一試験片から 3.0, 1.7 mmの板厚の平板を取り出して,二重露光法[1]により平板の残留応力マップを作成し,2 次元残留応力場の安定性についての指標を導く.

実験 / Experimental

◯試験片
 オーステナイト系ステンレス配管(SUS316, 150A, sch120)を突合せ溶接した.その溶接配管から,溶接線を中心に板厚5.0 mm,軸方向の長さ29.5 mmで試験片を放電加工で取り出した.さらに,その試験片から板厚t = 3 mm と板厚t = 1.7 mm の2 枚の試験片を放電加工で取り出した.これらの試験片をそれぞれt3試験片,t1.7試験片とする.これらのt3, t1.7試験片の溶接残留応力をDEM で測定する.
◯シンクロトロン放射光実験
 大型放射光施設SPring-8のQST専用ビームラインBL14B1を利用した.モノクロメータSi-511 を利用してX線波長エネルギー80 keVの入射ビームを用意した.入射スリット0.5 × 0.5 mm2,散乱防止スリット0.6 × 0.6 mm2とした.回折計の2θアームに自動テージを固定し,その自動ステージに検出器(CdTe ピクセル検出器)を搭載し,前後のP1とP2で回折を測定した.二重露光法におけるカメラ長L0 は 500 mm, 検出器の移動距離L は 400 mmとした.2θアームの角度2θを8.23度とした.2θアームの角度は,無ひずみの回折角度2θ0にすると検出器移動による画像のズレがないので,データの取得,処理で精度が良い.
◯測定位置・範囲
 裏波(penetration bead)の頂点を試料の原点O(x0, z0) = (0, 0) として0.5 mm ピッチで測定した(Fig.1参照).

結果と考察 / Results and Discussion

◯X線波長エネルギーと板厚について
 入射したX線は,透過経路を進む中で材料の吸収により減衰する.二重露光法で鉄鋼材料の応力を測定することを想定すると,X線波長エネルギー60, 70, 80 keV に対して,鉄(Fe) の線吸収係数µ は8.5, 6.0, 4.5 cm−1の値を取る[2].これに基づいて試験片の板厚t とX線減衰比I/I0 について計算するとFig. 2 が得られる.図からわかるように,80 keV のX線波長エネルギーは透過力が高く,二重露光法で応力を測定する場合は,高エネルギーX線を利用することが測定効率の点から推奨できる.
 例えば,80 keV で強度I0 = 1000 cps の入射X線を想定すると,板厚4 mm の試験片は2 秒の測定で370 カウントとなる.これに対して,板厚2 mm を2 枚の測定で各試験片1 秒で406 カウント得られる.ゆえに,板厚4 mm の測定に2 秒を費やすならば,板厚2 mm の試験片2 枚を各1 秒で測定する方が効率的である.さらに,板厚6 mm の試験片で8 秒かけて536 カウントが得られるが,板厚3 mm を2 秒で測定すれば518 カウントになる.板厚6 mm の試験片で8 秒測定するよりも,板厚3 mm の試験片を2 枚用意して2 秒で測定するならば,板厚6 mm の試験片と同じ測定時間で2 倍の測定点数を測定できる.
 以上のことから,二重露光法の測定においては,1) より高エネルギーX線かつマイクロビームを利用すること,2) 板厚t = 2∼3 mm の試験片を用意して多くの測定点数(広い測定領域) を測定すること,3) 複数枚の試験片の測定をして比較すること,が有効な測定方法である.
◯試験片板厚と残留応力の安定性
 Fig. 3(a) および(b) に試験片t3 および試験片t1.7 の軸方向の溶接残留応力マップを示す.測定位置(x, z) についてはFig. 1 に示すとおり,O(x, z) が裏波頂点に対応している.Fig. 2(a) の試験片t3 のマップを見ると,溶接線左側の熱影響部(HAZ)の内面付近に引張残留応力の領域があり,溶接部との境界付近に引張の残留応力が発生している.溶接部の内部でに圧縮残留応力の領域がが見られる.Fig. 3(b) の試験片t1.7 についても試験片t3 と同様の傾向が見られる.両試験片で同様の傾向については,溶接残留応力における機械的な残留応力を表しており,両者で異なる所については,試験片の個々の結晶粒ごとの微視的な残留応力を表している.当然のことながら,本測定結果は板厚方向にも残留応力の分布の変化があることも示している.
 一方,試験片t3 およびt1.7 の半径方向の残留応力マップをFig. 4 に示す.図(a) の試験片t3 と図(b) の試験片t1.7 は同様の残留応力分布のパターンを示していることから,板厚が1.7∼3.0 mm であれば,おおよそ残留応力を保持していることがわかる.ただし,残留応力マップには個々の結晶粒による微視的残留応力が平衡を保ちながら分布する影響も重畳しているので,同一になることはない.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Fig. 1: 突合せ溶接配管,取り出した試験片および測定位置の座標.



Fig. 2: 透過板厚さとX線減衰率の関係.



Fig. 3: 二重露光法で測定した軸方向の溶接残留応力マップ.



Fig. 4: 二重露光法で測定した半径方向の溶接残留応力マップ.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

◯参考文献
[1] 鈴木 賢治,三浦 靖史,二重露光法のための相互相関アルゴリズムによる回折角度決定,材料,Vol. 73, No. 4, pp. 286-292 (2024). 
[2] X-Ray Form Factor, Attenuation, and Scattering Tables, Physical Reference Data, National Institute of Standards and TechnologyNational Institute of Standards and Technology. https://physics.nist.gov/PhysRefData/FFast/html/form.html

◯謝辞
本研究は,学術研究助成基金助成金基盤研究(C) 課題番号22K03819 の援助を受けた.また,SPring-8 のビームラインBL14B1 の放射光実験は,マテリアル先端リサーチインフラ事業(No. JPMXP1224QS0119) の支援を受けた.ここに記して,感謝の意を表します.


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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