利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.04.22】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24QS0105

利用課題名 / Title

高水素圧力下におけるEu水素化物の電子状態分析V

利用した実施機関 / Support Institute

量子科学技術研究開発機構 / QST

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion

キーワード / Keywords

放射光/ Synchrotron radiation,メスバウアー分光/ Mossbauer spectroscopy,水素貯蔵/ Hydrogen storage,エネルギー貯蔵/ Energy storage,超伝導/ Superconductivity


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

増田 亮

所属名 / Affiliation

弘前大学大学院理工学研究科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

松岡 岳洋,原 洋新,北尾 真司

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

三井 隆也,藤原 孝将

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

QS-111:放射光メスバウアー分光装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

(目的)
希⼟類(RE)は⽔素(H)との電気陰性度の差から⽔素化物を⽣成しやすい元素として知られており、REH2やREH3など多価の⽔素化物を形成することが知られている。さらに、2020年前後より100 GPa級の⽔素圧⼒下において、従来の数気圧程度の⽔素化物とは異なる⽔素化物が⽣成することが明らかになりつつある。理論計算ではREHxにしてx = 4 – 10のさまざまな⽔素化物が提案され、また⼀部の⽔素化物は⾼温超伝導を⽰すなど、次々と従来の知識が塗り替えられるフロンティアとなっている。しかし、⾼⽔素圧⼒条件下での物性測定は⾼圧⼒発⽣装置(ダイヤモンドアンビルセル(DAC))の必要性及びDACによる試料空間の⼩ささから、測定⼿法には制限がある。そのようなDACによる制限は、⾼透過⼒の硬X線を⽤いるメスバウアー分光法と微⼩試料に対応可能な放射光を組み合わせた放射光メスバウアー吸収分光法で克服可能である。実際に本⼿法によって、ユウロピウム(Eu)について16 GPaまでの⾼⽔素圧⼒下でのEu価数が我々のグループによって報告されている。そして、Euにおいても他の希土類同様に、50 GPa-200 GPaの超⾼⽔素圧下ではEuH4, EuH5, Eu8H46, EuH6, EuH9,など様々な相が議論されている。それらの⼀部は理論的にクラスレート物質として議論され、Eu2+の磁気秩序が⽰唆されているものの、それを明らかにするための微視的電⼦状態の観点からの実験的研究は未だ報告がない。すなわち、X線回折による構造決定および理論計算での電⼦状態予測がともになされている現在において、電⼦状態の実験的な解明は微視的状態の理解の上で⽋けているピースとなっている。 そこで、本研究では、放射光メスバウアー吸収分光法により100 GPaに迫る⾼⽔素圧条件下Euに対して⽔素化進展に伴うEu電⼦状態の変化を実験的に調べることを目的とした。とくに、2024A期に初めて測定に成功した50 GPa-80 GPa領域のメスバウアーアイソマーシフトについてその再現性を調べてデータの正確さを確定させるとともに、90 GPa以上のより高水素圧力下での測定を試みることを目的とした。
(用途)
本研究により希土類元素の電子状態が判明すれば、理論予想と併せて希土類多水素化物が生成する機構の解明に大きく寄与すると考えられる。これは、LaH10などにみられるた高温超伝導の機構の解明に繋がるものと予想される。また、これにより⾼⽔素圧⼒下における電⼦状態測定法として放射光メスバウアー分光法を確⽴できれば、本手法を⾼圧⽔素物性実験⼿法としての他の物質の水素圧力印加実験にも利用できる。
(実施内容)
EuH2試料を水素流体を圧媒体としたDACで加圧し、放射光メスバウアー吸収分光法によりメスバウアーアイソマーシフトの圧力依存性を評価し、それを以て高水素圧力下でのEu価数を調べた。

実験 / Experimental

BL11XUの標準分光器および追加の中分解能分光器により、151Eu同位体の核共鳴励起エネルギー21.5 keVのX線を分光した。分光されたX線をDAC中で⽔素雰囲気下にて加圧されたEuHx試料に照射した。透過X線は、下流側に配置した基準となる散乱体試料(核共鳴エネルギー基準物質)として⽤いるEuF3に照射される。このエネルギー基準物質は速度制御装置と直結されており、ドップラー効果を通じて基準物質の相対核共鳴励起エネルギーをμeV程度のエネルギーレンジで制御でき、それにより透過X線のエネルギープロファイルを解析することでメスバウアーエネルギースペクトルを測定した。基準物質からの核共鳴散乱信号としてはX線も電⼦線もあるが、クライオスタット⽤真空チェンバー内に直接配置した8素⼦型アバランシェフォトダイオード(APD)検出器で全ての散乱線を同時に検出した。このシステムでドップラー速度と散乱線の強度の相関をとることで、⾼⽔素圧条件下でのEuに対して圧⼒・温度を制御した放射光メスバウアー測定を行った。測定条件としては、いずれも常温で、23 GPa, 52 GPa, 77 GPaの水素圧力下でのメスバウアーアイソマーシフト評価を行った。

結果と考察 / Results and Discussion

高水素圧力下でのメスバウアー測定結果をFig.1に示す。run#1とrun#2の違いは、同じ試薬からとった二つの試料で測定結果を示している。これらの結果は、従前と同様に20 GPa-80 GPaではEu3+であることを支持するものであった。また、これらの結果をこれまでの結果と併せて表記したものをFig. 2に示す。価数等の影響によるEu原子核位置での電子密度を反映するアイソマーシフト(IS)の値は、前回までの結果と同様の傾向であり、前回の結果は再現性があること確かめられた。一方で、より高い水素圧力を目指して85 GPa以上の水素圧力を目指したところ、run#1,・run#2ともにダイアモンドアンビルが破損してしまった。これにより、100 GPa級の高水素圧力での放射光メスバウアー吸収分光測定のためには、これまで用いてきた1段ベベルの通常タイプとは異なる、2段ベベルタイプのダイアモンドアンビルを用いる必要があることが判明した。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Fig. 1 放射光メスバウアー吸収スペクトル。同じEuHx試薬からとった二つの試料を利用しており、それぞれをrun#1とrun#2として記載している。メスバウアードップラー速度の基準は、常温のEuF3である。



Fig. 2 メスバウアーアイソマーシフトの圧力依存性。run#1とrun#2についてはFIg. 1と同じ意味である。


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

本研究はARIM課題番号JPMXP1224QS0105にて行われました。また、JSPS科研費 JP23K11698 の助成を受けたものです。放射光実験はSPring-8にて課題番号2024B3582で行われました。水素圧媒体の導入には、JASRIの装置を利用させていただきました。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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