【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.04.17】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
24QS0005
利用課題名 / Title
高水素圧力下におけるEu水素化物の電子状態分析IV
利用した実施機関 / Support Institute
量子科学技術研究開発機構 / QST
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion
キーワード / Keywords
量子効果/ Quantum effect,放射光/ Synchrotron radiation,エネルギー貯蔵/ Energy storage,メスバウアー分光/ Mossbauer spectroscopy,水素貯蔵/ Hydrogen storage,超伝導/ Superconductivity
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
増田 亮
所属名 / Affiliation
弘前大学大学院理工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
松岡 岳洋,齋藤真器名,原洋新,村上海斗,加藤大貴,蛭名健太,清水颯人
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
三井 隆也,藤原 孝将
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
(目的)
希⼟類(RE)は⽔素(H)との電気陰性度の差から⽔素化物を⽣成しやすい元素として知られており、REH2やREH3など多価の⽔素化物を形成することが知られている。さらに、2020年前後より100 GPa級の⽔素圧⼒下において、従来の数気圧程度の⽔素化物とは異なる⽔素化物が⽣成することが明らかになりつつある。理論計算ではREHxにしてx = 4 – 10のさまざまな⽔素化物が提案され、また⼀部の⽔素化物は⾼温超伝導を⽰すなど、次々と従来の知識が塗り替えられるフロンティアとなっている。しかし、⾼⽔素圧⼒条件下での物性測定は⾼圧⼒発⽣装置(ダイヤモンドアンビルセル(DAC))の必要性及びDACによる試料空間の⼩ささから、測定⼿法には制限がある。そのようなDACによる制限は、⾼透過⼒の硬X線を⽤いるメスバウアー分光法と微⼩試料に対応可能な放射光を組み合わせた放射光メスバウアー吸収分光法で克服可能である。実際、我々のグループは本⼿法によって、ユウロピウム(Eu)について16 GPaまでの⾼⽔素圧⼒下でEu価数を明らかにすることに成功している。Euにおいても他の希土類同様に、50 GPa-200 GPaの超⾼⽔素圧下ではEuH4, EuH5, Eu8H46, EuH6, EuH9,など様々な相が議論されている。それらの⼀部は理論的にクラスレート物質として議論され、Eu2+の磁気秩序が⽰唆されているものの、それを明らかにするための微視的電⼦状態の観点からの実験的研究は未だ報告がない。すなわち、X線回折による構造決定および理論計算での電⼦状態予測がともになされている現在において、電⼦状態の実験的な解明は微視的状態の理解の上で⽋けているピースとなっている。そこで、本研究申請では、放射光メスバウアー吸収分光法により100 GPaに迫る⾼⽔素圧条件下Euに対して⽔素化進展に伴うEu電⼦状態の変化を実験的に調べることを目的とする。
(用途)
本研究により希土類元素の電子状態が判明すれば、理論予想と併せて希土類多水素化物が生成する機構の解明に大きく寄与すると考えられる。これは、LaH10などにみられるた高温超伝導の機構を解明に繋がるものと予想される。また、これにより⾼⽔素圧⼒下における電⼦状態測定法として放射光メスバウアー分光法を確⽴できれば、本手法を⾼圧⽔素物性実験⼿法としての他の物質の水素圧力印加実験にも利用できる。
(実施内容)
EuH2試料を水素流体を圧媒体としたDACで加圧し、放射光メスバウアー吸収分光法によりメスバウアーアイソマーシフトを通してその価数の圧力依存性を評価した。
実験 / Experimental
測定系をFig. 1に示す。BL11XUの標準分光器および追加の中分解能分光器により、151Eu同位体の核共鳴励起エネルギー21.5 keVのX線を分光した。分光されたX線をDAC中で⽔素雰囲気下にて加圧されたEuHx試料に照射した。透過X線は、下流側に配置した基準となる散乱体試料(核共鳴エネルギー基準物質)として⽤いるEuF3に照射される状況にある。このエネルギー基準物質は速度制御装置と直結されており、ドップラー効果を通じて基準物質の相対核共鳴励起エネルギーをμeV程度のエネルギーレンジで制御でき、それにより透過X線のエネルギープロファイルを解析することでメスバウアーエネルギースペクトルを測定した。基準物質からの核共鳴散乱信号としてはX線も電⼦線もあるが、クライオスタット⽤真空チェンバー内に直接配置した8素⼦型アバランシェフォトダイオード(APD)検出器で全ての散乱線を同時に検出した。このシステムでドップラー速度と散乱線の強度の相関をとることで、⾼⽔素圧条件下でのEuに対して圧⼒・温度を制御した放射光メスバウアー測定を行った。測定条件としては、5.1 GPa, 18.2 GPa, 50.2 GPa, 75 GPa, 80 GPaの水素圧力下で、いずれも常温で行った。
結果と考察 / Results and Discussion
放射光メスバウアー吸収測定で評価された、メスバウアーアイソマーシフトの圧力依存性をFig. 2に示す。X線回折ではこの10 GPa以上の圧力範囲では大きな結晶構造の変化は無いことが知られているが、それに対応してこの範囲ではずっとEu3+であることを示唆する結果が得られた。また、この範囲でのアイソマーシフトの圧力による変化は、これは水素圧上昇による151Eu核位置の電子密度の増大を反映しているものと考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig. 1 放射光メスバウアー吸収分光法の測定系概略図。
Fig. 2 メスバウアーアイソマーシフトの圧力依存性。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
本研究はARIM課題番号JPMXP1224QS0005でおこないました。JSPS科研費 JP23K11698 の助成を受けたものです。また、放射光実験はSPring-8にて課題番号2024A3582で行われました。加えて、水素圧媒体の導入には、JASRIの装置を利用させていただきました。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- Ryo MASUDA, Takaya MITSUI, Yoshitaka YODA, Makoto SETO, "Energy domain Mössbauer spectra of rare-earth nuclides using synchrotron radiation", International Symposium for the Industrial Applications of the Mössbauer Effect 2024 (北九州市), 令和6年9月2日, 招待講演.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件