【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.16】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
24AE0012
利用課題名 / Title
窒化TiO2生成の素過程解明に向けたリアルタイム光電子分光
利用した実施機関 / Support Institute
日本原子力研究開発機構 / JAEA
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
窒化物,TiO2,チタニア,素過程,X線光電子分光,ドーピング,太陽電池/ Solar cell
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
阿部 真之
所属名 / Affiliation
大阪大学大学院基礎工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
大野 真也,勝部 大樹, 稲見 栄一,金 庚民,秋山舜,中野脩己,長門 諒浩
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
吉越章隆
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
二酸化チタン(TiO2)は光触媒の材料や色素増感太陽電池の電極材料など幅広い応用が期待される重要な物質である。さらに、近年、アナターゼ型TiO2表面において、二次元電子ガス状態が発見・報告されており、電子デバイス応用の観点からも注目されている。TiO2を光触媒として利用する場合、紫外光(波長400nm以下)が必要となる。日光には紫外線が含まれているので、屋外での利用では、実用上の問題はないが、室内(蛍光ランプや照明器具)での利用には、可視光応答の光触媒が重要であり、それは、例えば窒素を光触媒にドープすることで実現可能であることが明らかにされている。窒素を固体材料へドープするには、ガス元素イオンの打込みとアニールを組み合わせた処理、ガス雰囲気下における超高温での焼成、薄膜等の合成中のプラズマ反応の付加、などの強力な運動エネルギー、熱エネルギー、イオン化エネルギー、化学エネルギーを用いた制御が必要である。これらのプロセスには酸化物材料の利用にとって致命的な酸素欠損というプロセスダメージを引き起こす可能性があるとともに、プロセスコストや時間を要する場合もあり、決して実用的な手法とは言えない。
近年、我々のグループではNO分子線をTiO2表面に照射した場合、窒素をTiO2にドープできていることを、BL23SU(表面化学実験ステーション)に常設しているX線光電子分光装置(XPS)を用いて発見した(特願2018-057186)。これは、超熱状態の分子線を使った熱反応に依らない新たな元素ドープ方法の開拓であり、通常、多くの酸化物がn型であることに対する、p型伝導特性の付与を可能とするものである。材料表面プロセスの基礎研究としての重要性ばかりでなく、他の多くの酸化物材料に対する伝導性の制御と機能化処理の研究、それらのpn接合を利用した発光・受光デバイスなどの新たな応用研究の可能性を秘めるものである。
以上を踏まえて本研究では、これまで実用化に向けてネックであった、TiO2の窒化に関して、プロセス面における問題を解決することを目指すために、その素過程解明を目的とした放射光リアルタイム光電子分光分析を行う。具体的には、前回と同様に、BL23SUに常設しているXPSを用いて、アナターゼ型TiO2表面における欠陥や吸着種の定量化や反応のダイナミクスを解明するとともに、価電子帯スペクトルを得る。しかしながら、NO分子の吸着状態やNO分子線の並進エネルギーによる表面状態の違いと表面電子物性との関係を明らかにすることを目標としていたが、装置のトラブルのため、試料表面の作製の確認ができず、当初予定していた実験を進めることができなかった。そこで、金属酸化物材料であるZnO(0001)に関する実験を進めた。
実験 / Experimental
以下、予定した実験方法について述べる。この実験は、次回以降の実験の機会が得られたときに実施することとする。
測定試料として、ルチル型TiO2(110)、PLD法により作製されたアナターゼ型TiO2(001)薄膜(成膜条件により欠陥密度等を制御する)を用いる。表面で観測される酸素欠陥量の異なる薄膜試料に対し、超音速NO分子線を照射した際の表面の反応性について検討を行う。具体的な測定としては、以下の2点を行う。
1. 大気中から導入した表面未処理のアナターゼTiO2へのNO分子線の照射(分子線発生装置のノズル加熱無)
2. 清浄表面および酸素欠陥導入表面、水吸着表面へのNO分子線の照射(ノズル加熱無)
これまでの実験では、超音速NO分子線の並進エネルギーやノズル温度、また、照射される表面の状態に依り、形成されたN1s状態が異なっていること(TiN、TiON等の比が異なっている)が観測されている。また、清浄表面と水吸着表面では、NO分子線との反応性が異なっていることも観測されており、表面のOH基がN1s状態の形成に深く関わっているだろうと推測している。これらについて、現段階では大まかな変化のみが観測できているに留まっている。そのため、NO分子線による反応でのN1s状態の密度(吸着量)はあらかじめ表面に存在するOH基に依存しているのか、表面に存在する酸素欠陥に依存しているのか、並進エネルギーを変化させると反応性が変化するのか、NO分子の振動励起の有無により反応性が変化するのか、といった反応制御を決定する基礎的な支配的な反応因子や条件、また、それに付随するNO分子のドーズ量による反応過程については未だ明らかにできていないため、それを明らかにしたいと考えている。
上述したとおり、当初の計画では、アナターゼTiO2の実験を主軸に据えていた。この実験を適切に遂行するためには、試料表面の清浄化が不可欠であり、その確認には低速電子線回折(LEED)の使用が必要不可欠であった。しかしながら、装置の不具合があり、当初の予定通りLEEDを利用することができなかった。そこで、限られた時間と資源を最大限に活用するべく、新たな研究テーマの再検討し、実験を行った。具体的には、今後の新規テーマとしてZnO(0001)面を取り上げることにした。この選択には、ZnOが興味深い物性を持つ材料であり、未解明の点も多いこと、既存の実験設備を有効活用できる可能性が高いことなどの理由による。
ZnO表面における吸着原子の存在を確認するため、X線光電子分光(XPS)を用いた分析を行った。特に注目したのは、過去の研究事例で報告されている「表面2層目に水素(H)が真空から入り込んでいる」という現象である。この現象を確認するためには、ZnO表面に水を暴露することで、吸着水素との反応が起こる可能性を探る実験を行った。水暴露後にXPS測定を行い、水素の吸着状態の変化を詳細に観察した。
結果と考察 / Results and Discussion
ZnO試料を用いたH2O暴露実験で以下のことが明らかとなった。
・真空中スパッタアニール処理を行うだけで、チャンバー残留H2分子とZnO表面が反応し、OH基由来のピークが検出された。これは理論研究で示されている、ZnO表面がHとの反応性が非常に大きいという点と一致する
・H2Oを100L(ラングミュア)暴露すると、Hがバルクに入り込む上限に達し、更に表面に吸着したH2O由来のピークが検出された。
・高温アニールを行い、ZnOの酸素欠陥を増やすことで、OH基の生成量が増加することを確認した。
今後は、観測された状態の精密な成分分析を行うとともに、加熱ノズルを用いた高い並進エネルギーにおける反応性を調べることで、NO分子とアナターゼ型TiO2表面との反応を解析していきたいと考えている。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
通常であれば、限られた時間内で実験に集中する必要があったところだが、今回の状況を逆手に取り、大学院生への実験指導にも力を入れることができた。具体的には、XPSの原理から測定技術まで詳細に指導した。さらに、これまで行ってきた実験データをまとめ、学会発表を行った(下記参照)。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 勝部 大樹,金 庚民,大野 真也,津田 泰孝,稲見 栄一,吉越 章隆,阿部 真之,「超音速NO分子線で照射されたNOのアナターゼ型TiO2(001)表面における反応」,第85回 応用物理学会秋季学術講演会,16p-D63-16,2024年9月16日
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件