利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.16】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24UT0156

利用課題名 / Title

リン酸カルシウムの応力発光

利用した実施機関 / Support Institute

東京大学 / Tokyo Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed

キーワード / Keywords

セラミックスデバイス/ Ceramic device,光デバイス/ Optical Device,X線回折/ X-ray diffraction,フォトニクスデバイス/ Nanophotonics device,メタマテリアル/ Metamaterial,生体イメージング/ In vivo imaging,バイオセンサ/ Biosensor


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

早川 洸海

所属名 / Affiliation

東京大学工学系研究科バイオエンジニアリング専攻

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UT-204:粉末X線回折装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

本研究は、リン酸カルシウムに応力発光機能を付与した新たなバイオセラミクス材料の開発が目的である。応力発光については、これまで多くの材料でその現象の発現が報告され、原理やデバイスなどへの応用可能性が研究されてきたが、リン酸カルシウムを用いた事例は未報告である。本研究では、リン酸カルシウムの優れた生体適合性に着目し、応力発光機能を付与することで、力学的な刺激を可視化できる新しいバイオセラミクス材料を提案する。応用先としては歯科用インプラントを想定し、インプラント装着時に発生する応力分布を可視化するイメージング技術の実現を目指す。本研究により、リン酸カルシウムの応力発光機能が生体材料としての新しい可能性を示し、医療分野における診断や治療の高度化に寄与することを目指す。

実験 / Experimental

本研究では、人間の骨や歯の主な構成成分として知られるリン酸カルシウムに応力発光特性を付与し、この材料を基盤とした新たなバイオセラミクス材料の開発を目指す。従来のストロンチウムやジルコニウムを母体とした応力発光材料は多くの場合、生体適合性が十分ではないため、医療現場での応用には限界があった。一方で、リン酸カルシウムは生体適合性に優れ、生体活性にも優れることから骨再生を界面において促進する性質を持つことから、医療分野において特に有望な材料として期待される。この材料を用いることで、歯科用インプラントの応力分布解析や術後モニタリングに応用することが可能になり、患者個別の治療計画の立案や患者の身体に適合するデバイス設計の最適化へと活用が期待される。また、将来的には応力発光材料をバイオイメージング用光源として活用する可能性についても視野に入れることができる。「超音波応力発光(USML)」技術を応用すれば、非侵襲的に生体内の決まった組織や細胞へとバイオマーカーを送り込み、体外から人体に影響のない診断や治療技術の高精度化を図ることが可能となる。このリン酸カルシウムの構造解析をXRD(SmartLab Kα1)で行った。

結果と考察 / Results and Discussion

合成した各種リン酸カルシウムの結晶構造同定をXRD(SmartLab Kα1)で行った。
EuとDyを共添加したリン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)の発光特性について、蛍光、高残光性、熱ルミネセンス(TL)、および応力発光の観点からの様々な測定を行った結果、Eu濃度2%およびDy濃度1%の試料が最も優れた発光特性を示すことが明らかとなった。蛍光測定の結果、Eu2+イオンの結晶場効果により、Eu濃度2%の試料が最も大きな発光強度を示し、これはEu2+の4f6→5d1遷移による電子の励起と放出が効率よく進行したからと考えられる。また、励起波長によって発光ピークのシフトが観測され、これはEu2+の5d軌道が結晶場の影響を受け、局所環境に応じてエネルギー準位が変化したことによる影響の結果であると考えられる。YbとDyを共添加した試料では、Dyの添加によってYbの発光スペクトル波長が長波長側へ50 nmシフトし、DyがYbよりも強い波長制御効果を有することが分かった。また、水素還元処理による変化がDyで顕著に表れ、DyとEuのバンド間距離がDyとYbよりも短いため、電子遷移時のエネルギー移動幅が抑制された結果により波長シフトが生じたと考えられる。一方で、Ybは可視光領域のみならず近赤外領域にも発光スペクトルを持つことから、生体窓における応用が期待される。また、クエン酸三ナトリウムや炭酸ナトリウムを原料として合成したCa10Na(PO4)7は白色発光を示し、励起波長に変化はないものの、蛍光波長が変化する様子が見られた。特に炭酸ナトリウム由来の試料では400 nm付近と800 nm付近で強い蛍光強度が確認され、原料の違いが蛍光の特性に影響を与えていることが明らかになった。加えて、α相とβ相の結晶構造の観点での違いも蛍光強度に影響を与え、α相は強い結晶場と多様なトラップサイトを有することで高い蛍光強度を示すのに対し、β相ではトラップサイトの単純化によって蛍光強度が抑制され、結晶場の違いによる二重ピークが観測された。リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)にEuを添加すると、単位格子体積が増加し、β相が支配する割合が増加する傾向が確認された。Eu添加量が4%付近ではα相とβ相が共存し、それ以上の添加でβ相がより支配的になることが分かった。α相は1350℃で急冷却することで結晶相が安定化する一方、β相は900–1000℃でのアニール処理やNaの混合により安定化される。また、EuやDyの添加量が増えるに伴って結晶化度が向上し、アモルファスが占める領域が減少していったことで発光効率が上昇することがわかった。特にEu添加によって、原子半径がCaより大きい影響で結晶格子の歪みが生じ、β相の割合が大きくなっていくことが明らかとなったが、Dy添加ではこの影響がやや弱くなる。Naを添加したCa10Na(PO4)7では、NaCO3由来の試料が高いβ相割合を示し、Eu添加量が1%の条件で最適な発光特性が得られた。α相とβ相の持つ結晶構造の違いから生じる発光特性の差異として、α相は強い結晶場と多様なトラップサイトを持ち、発光効率が高くなるのに対し、β相は構造が単純であり、スペクトルが二重ピークを示す傾向がある。さらに、水素還元処理により結晶化度が向上し、β相が優先的に占める構造が形成されることで、未還元サンプルと比較して発光特性が大幅に改善されることが判明した。これらの結果から、EuやDyの添加割合、水素還元処理、Naの混合といったプロセスがリン酸カルシウムの結晶構造や発光特性を大きく左右する可能性が示唆され、とりわけβ相は生体材料としての応用に適した結晶相であると考えられる。残光特性に関しては、Dy3+がエネルギートラップとして機能し、捕獲された電子が徐々に解放されることによって長時間の残光が得られた。特にEu濃度2%の試料では、他の濃度と比較して残光の強度が高くなる傾向にあり、発光持続時間も最長であった。この結果は、Dy3+が深いトラップ準位を形成し、Eu2+間のエネルギー移動効率が最適化されることで、高効率なエネルギーの放出による発光が可能になったことを示唆している。また、残光強度を向上させる励起光の波長としては、蛍光波長のピーク付近の波長が最も高い蛍光強度を示し、残光性と蛍光の発光プロセスが共通する電子遷移によって生じている可能性が考えられる。熱ルミネセンス測定の結果、Eu濃度2%の試料が最も高い活性化エネルギー(3.08 eV)を示し、これはEu2+間の適度な相互作用とDy3+によるトラップダイナミクスが深いトラップ準位を形成することを示唆している。一方、Eu濃度が2%を超えると、Eu2+間の相互作用が過剰となり、エネルギー分散や浅いトラップ準位の形成が次々に促されるため、活性化エネルギーが低下する傾向が観測された。応力発光の測定では、Eu濃度2%の試料が最も大きな発光強度を示し、Eu2+とDy3+の配置が応力による電荷分離を効率的に促進し、機械的刺激による電子捕獲および放出の速度や効果が増強された結果と考えられる。特に、Eu濃度2%の試料では、結晶場の最適化により、機械的刺激が発光プロセスに高い効率で寄与したと推測される。これらの結果を総合すると、Eu濃度2%およびDy濃度1%の条件がリン酸カルシウムにおける最適な発光特性を示すことが明らかとなった。この条件では、結晶場の効果、エネルギー移動効率、トラップダイナミクスが最適化され、蛍光性、残光性、熱ルミネセンス、応力発光のすべての測定で最も高光度の結果が得られている。 最後に、強度こそ弱いものの、本実験ではリン酸カルシウムの応力発光の測定を実現し、その発光プロセスを蛍光特性や残光性、熱ルミネセンスなどから評価することにより今後の応力発光強度の獲得に向けた重要な示唆を得た。
また、添加する希土類金属元素やアルカリ金属元素の制御によって蛍光波長並びに結晶構造の制御が可能となり、将来的な生体材料応用へ向けた可能性についても示唆を得ることが出来た。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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