【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.13】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
24UT0131
利用課題名 / Title
Al中微細金属間化合物の構造解析
利用した実施機関 / Support Institute
東京大学 / Tokyo Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies
キーワード / Keywords
アルミニウム基合金, HAADF,資源循環技術/ Resource circulation technology,電子顕微鏡/ Electronic microscope
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
佐々木 勝寛
所属名 / Affiliation
株式会社UACJ
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
仲田 都,松本 小友季
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
Al高温強度を維持するために、L12構造のAl3(Zr-Sc) 微細析出物を析出させる手法が有力である[1]。Al3Scは均一析出性に優れるが熱安定が不十分である。一方Al3Zrは高温安定性に優れるが、均一析出性に劣る。熱処理工程により、Al3Scをまず均一析出させ、後に周囲にAl3Zrを析出させたコアシェル構造が提唱されている。熱処理時間によりコアシェル構造に変化がある可能性がある。適切な熱処理条件を求めるために、数10nm径のコアシェル粒子内でのScとZrの分布を評価する必要がある。EDSは十分な空間分解能が得られないため、HAADF像より組成推定を試みた。
実験 / Experimental
試料には2000系Al合金に0.1mass%程度のZr, Scに固溶させた試料をAl3ScとAl3Zrそれぞれの析出温度で熱処理した、Al3Zr析出時間を23年度に用いた試料の1/10程度としたものを用いた。Al3(Sc-Zr)はL12構造であるため、<100>方位より観察するとAlカラムとSc-Zrカラムが交互に配列する。HAADF像の両カラムの強度比を比較することによりSc-ZrカラムにおけるZr/Sc比が推定できる。JEM-ARM200F ColdFE(STEM Double SDD)を用いて、原子分解能HAADF像を<100>方位より観察した。
結果と考察 / Results and Discussion
HAADF像より23年度に用いた試料と同様な明るいコントラストを持つ球形粒子が観察された。HAADF像のコントラストはZ2に比例する[2]ため、球形粒子はAl3(Sc-Zr)粒子と考えられる。粒径が34nm程度の各原子カラムを分解できる高倍像を<100>より観察した(Fig. 1)。L12構造を持つAl3(Sc-Zr)の明るい(Sc-Zr)カラムと、周囲を囲む弱いコントラストのAlカラムが観察されている。図中横線で示された粒子中央を横切る直径分の原子列のコントラスト強度をFig. 2に示す。十分な解像度が得られていないため不明瞭な領域もあるが強いSc-Zrカラムと弱いAlカラムが交互に並んでおり83格子分の直径があることが分かる。 粒子形状を球形と仮定し、23年度に提唱したEq.1を用いSc-Zrカラム中のZr比を評価した。I はSc-Zrカラムの強度ISc,Zrから同じ厚さの隣のAlカラムの強度IAlを差し引いたもの、k’は測定強度とZコントラストを結ぶ光学系の様々な値を含んだ比例係数、tは試料厚さ、rは粒子半径で41格子、xは粒子中心からの距離(格子数)、CZrはSc-Zrカラム中のZrの組成である。Sc-Zr層のカラム厚は√(r2-x2)となり、比例係数k’とZr濃度CZr以外は既知の定数となり、k’を推定することが出来ればCZrを求めることが出来る。各原子カラムの強度をFig.2より求めたものより、CZrが0~1の範囲となるk’を求めると本測定では約2200となった。各点でのCZrの値を求めると、一部のデータが1以上または0以下となったが、23年度の測定に対して空間分解能が不十分なため誤差が大きくなるためと考えた。CZr値の分布はFig. 3中の黒点のようになり、表面より10格子でCZr=1弱となる層が見られ、内層で急激な濃度低下の後、中間的な濃度を示す領域を経、粒子中心部でほぼゼロとなった。ここで23年度に提唱したコアシェル構造を仮定すると、粒子外径をR、粒子内のSc濃度の高い部分の半径をr、像上でZr過多のシェル部の1/2厚さtZr、Zr濃度CZr-outer、Sc過多のコア部の1/2厚さtSc、Zr濃度CZr-inner、tTotal=tSc+tZrとすると、粒子内でのCZrはEq. 2の様な分布となる。ここで、粒子中心よりの距離xにおいて、R>x>rでtZr=√(R2-x2)、tSc=0、r>xでtZr=√(R2-x2)-√(r2-x2)、tSc=√(r2-x2)である。CZr-outer=0.8、CZr-inner=0、シェル層厚さR-r=10 の条件ではFig. 3の赤線のようになり、中間濃度部分や中央部の低濃度部分が再現できなかった。そこで、中間的なZrの濃度CZr middleの層がrZrSc径で存在すると仮定するとCZrはEq.3のようになった。ここでR>x>rZrScでtZr=√(R2-x2)、rZrSc >x>rでtZr=√(R2-x2)-√(rZrSc 2-x2)、中間濃度CZr middle層の1/2厚さtZrScはtZrSc =√(rZrSc 2-x2)となる。さらに、r>xではでtZr=√(R2-x2)-√(rZrSc 2-x2)、でtZrSc=√(rZrSc 2-x2)-√(r 2-x2)、tSc=√(r2-x2)である。tTotal=tSc+ tZrSc +tZrとする。CZr-outer=0.8、CZr middle=0.4、CZr-inner=0、シェル層厚さR-rZrSc=10 r=18の条件ではFig. 3の青線のようになり、中間的な濃度を示す領域の肩の形状は再現できたが、中央部分の低濃度域は再現できなかった。シェル部分のZr濃度が高い場合、中央部分でもシェル部分のZrが重なって検出されるため、測定されたようなZr低濃度域が形成されないためである。本測定でのAl3(Zr-Sc)粒子は23年度に観察された粒子の2.2倍の直径がある。そこで、試料膜厚が粒子の直径より薄く、粒子上下面が研磨されている形状を仮定した。すると、試料の1/2厚さt0がrZrSc>t0>rの条件において、球状析出物の表面が片面で削り取られる厚さをtdとするとx>√(R2- t02)でtd =0、√(R2- t02)> xでtd =√(R2- x2)- t0となる。また、中間的なZrの濃度層が削り取られる厚さtdZrScはx >rZrScにおいてtdZrSc =0、 rZrSc > xにおいてtdZrSc =√(rZrSc 2- x2)- t0となる。このためR>x>rZrScでtZr=√(R2-x2)- tdとなり、rZrSc >xでtZrは√(R2-x2)-√(rZrSc 2-x2)>td の場合はtZr=√(R2-x2)-√(rZrSc 2-x2)- td、√(R2-x2)-√(rZrSc 2-x2)<tdの場合はtZr=0となる。rZrSc >x>rでtZrSc =√(rZrSc 2-x2)- tdZrScとなり、r>xの場合はtZrSc =√(rZrSc 2-x2)- √(r 2-x2)- tdZrScとなる。上記の条件をEq.3に代入すると、Fig. 3のオレンジ線のようになり、中央部の低Zr領域を再現することが出来、測定結果と良い一致を示した。観察された粒子は、Al3Zr析出のために熱処理時間が短いため、Al3ZrとAl3Scが共析した層が形成されたのではないかと考えられる。また、23年度の結果と比較すると、長時間の熱処理中にAl3Zr-Al3Sc共析層はAl3ZrとAl3Scへ相分離することが示唆された。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig. 1 The HAADF image Al3Sc-Al3Zr precipitate. The line indicates position of measured columns.
Fig. 2 The intensity profiles of Sc-Zr columns and Al columns along the line indicated in Fig. 1. Arrows indicate the surface of the precipitate.
Fig. 3 The measured and calculated Zr ratio with the models of the simple core shell (red line), the three layers with middle Zr concentration (blue line), and the top and bottom cut shape of three layers (orange line) in the particle. Abscissa indicates the lattice number from the left arrow in Fig. 2.
Eq. 1 The relation between I which is the difference of ISc,Zr and the adjacent IAl, and Zr concentration CZr.
Eq. 2 CZr of core-shell structure with high Zr shell and high Sc core.
Eq. 3 CZr of three layers structure with high and middle Zr and high Sc core.
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
[1] B. Forbord, H. Hallem, J. Røyset, K. Marthinsen, Mat. Sci. Eng. A 475 (2008) 241–248 [2] R.F. Egerton, Electron Energy-Loss Spectroscopy in the Electron Microscope 3rd ed,, (Springer, New York) Ch. 5.3.4, (2011).
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件