【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.04.11】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
24AT5032
利用課題名 / Title
陽電子消滅法によるイオン照射高分子の構造変化の解析
利用した実施機関 / Support Institute
産業技術総合研究所 / AIST
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
陽電子消滅寿命測定法, 高分子系材料
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
岡 壽崇
所属名 / Affiliation
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
満汐孝治
利用形態 / Support Type
(主 / Main)技術代行/Technology Substitution(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
AT-501:陽電子プローブマイクロアナライザー(PPMA)
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
イオンビーム照射高分子は,照射後に大気中に取り出すと酸化劣化する。この酸化状態は,従来は赤外分光装置でカルボニル基の収量から調べていた。本研究では,陽電子がカルボニル基などの極性基に捕捉されやすい性質を利用し,ナノ構造のマイクロメートルオーダーでの変化を測定する。
実験 / Experimental
2 mm厚の高密度ポリエチレンを12枚重ね,それらに2700 MeVのNe10+ビームを大気中・室温で40 kGy照射した。照射から1年および4年経過したときに12枚の試料のカルボニル基の収量(酸化の指標)を顕微フーリエ変換赤外分光装置(FT-IR)で測定した。測定用の試料は2 mm厚の試料からミクロトームで短冊状の試料を切り出し,顕微FT-IRでイオンビームの進行方向に沿って深さ分布を測定することで,イオンビームの進行方向に沿った局所的な酸化状態の変化を得た。また,陽電子プローブマイクロアナライザー(PPMA)で同試料のオルト-ポジトロニウム(o-Ps)の寿命と生成割合の深さ分布を測定した。
結果と考察 / Results and Discussion
照射から1年経過後の顕微FT-IRの測定結果から,(1)各試料の表面のカルボニル基の収量が多い(=酸化している),(2)試料内部の酸化はイオンビームの線エネルギー付与(LET)に依存して増加する,などがわかった。高密度ポリエチレンに対して大気中でイオンビームを照射したため,絶えず新しい酸素が共有されることから照射によって生成したラジカルは試料表面で酸素と反応する。一方,表面よりも中の領域では,ラジカルはLETに依存して生成するため,酸化量はLETの変化に応じて増加したと考えられる。4年経過後の測定結果からは,(1)試料表面の酸化が進行する,(2)試料内部(2 mm厚試料の中程,表面から1 mm)の酸化の進行が著しい,ことがわかった。照射後に生成したラジカルは,ハイドロパーオキサイド(-ROOH)となるが,これは長期保存中に熱や光の効果で分解してラジカルとなり,そのラジカルが酸素と反応してカルボニル基が増加する。試料表面は長期保管中も新しい酸素が共有されるために酸化が進行した。一方,試料内部に存在するハイドロパーオキサイドは,保管中に試料内部に浸透してきた酸素と反応して酸化する。しかし,照射時の激しい酸化によって表面から300 μm付近のラジカルはほとんど消滅しており,この領域のカルボニル基は4年経過してもほとんど増加しない。そのため,試料の内部ほどラジカルが残存しているので酸化の進行が著しかったと推察される。
長期保管後の試料のPPMAの測定の結果から,o-Ps寿命はイオンビームが停止するブラッグピーク付近で短くなり,o-Ps生成割合は酸化が多いところほど低くなることがわかった。ブラッグピーク付近では試料の架橋が多く,高分子が絡み合うことで分子の運動性が低下したためにo-Ps寿命が短くなったと考えられる。一方,極性基であるカルボニル基が存在すると,試料中に打ち込まれた陽電子は極性基に捕捉されてしまいo-Psを形成しにくくなるため,o-Psの生成割合が低下した。
従来はイオンビームによる局所的な化学構造変化は顕微FT-IRで調べるしかなかったが,PPMAによって,局所的な構造変化を自由体積空孔サイズの変化やo-Ps形成割合の変化として捉えられるようになり,PPMAが高分子材料のマイクロメーターオーダーの構造変化を測定するための強力なツールになることが示唆された。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- Toshitaka Oka, Change of chemical structure measured by positron probe microanalyzer, PPC13, 2024/10/27-11/1, Kanazawa, Japan
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件