利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.14】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24NM0091

利用課題名 / Title

固体NMRと計算機シミュレーションによる酸化物ガラスの精密構造解析

利用した実施機関 / Support Institute

物質・材料研究機構 / NIMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

ガラス,無機材料,核磁気共鳴/ Nuclear magnetic resonance


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

大窪 貴洋

所属名 / Affiliation

千葉大学 大学院工学研究院

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

大木忍

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NM-103:800MHzナローボア固体高分解能NMRシステム


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

本研究では、高アルミナシリケートガラス(60Al2O3-40SiO2)の局所構造と物性の関係を解明するために、第一原理分子動力学計算(AIMD)と固体NMR実験による構造解析を行った。このガラスは電子・光学デバイスへの応用が期待されているが、その原子および電子構造は十分に理解されていなかった。特に、固体 27Al NMRスペクトルに見られるピークの広がりが、非晶質状態に起因することから、その解釈が困難であった。本研究では、AIMD によってガラスの原子構造モデルを構築し、その妥当性を高エネルギーX線回折データと比較することで検証した。さらに、AIMDによる電子構造解析とGIPAW 法を用いた NMRパラメータの計算を通じて、化学シフトや四重極相互作用の物理的起源を探った。その結果、AIMDによるモデルは従来の古典分子動力学(CMD)モデルよりも X 線回折データとよく一致し、ガラス構造をより正確に再現していることが確認された。

実験 / Experimental

高アルミナシリケートガラスは、京都大学増野研究室より提供された。ガラス試料を粉砕し、NMR試料とした。27Al MAS NMR スペクトルは、カスタムメイドのシングルチューン NMR プローブと、800 MHzの磁場強度(18.79 T)で動作する JEOL Delta スペクトロメーターを用いて取得した。この磁場強度における 27Alの共鳴周波数は 208.49 MHzである。このシングルチューンプローブは高出力の無線周波数(RF)入力に耐えることができ、そのため非常に短いパルス幅を用いた 27Al NMR 実験が可能である。ガラスの粉末試料は 3.2 mmのZrO2チューブに充填した。試料は 20 kHzで回転させ、パルス長は0.1 usに設定し、リサイクル遅延は5 sに設定し、スペクトル強度の定量性を確保した。27Al MAS スペクトルは 1024 スキャンで取得した。

結果と考察 / Results and Discussion

NMR スペクトルの解析では、Al 原子の配位数(4, 5, 6)によって化学シフトの分布が変化し、特に 5 配位 Al の化学シフトが従来のモデルでは説明しきれなかった領域に現れることが明らかになった。また、電子密度分布の解析から、Al-O 結合の電子分布が Al の配位数に依存せず、ガラスネットワーク全体に均一に広がっていることが示された。この結果は、ガラス内での電荷補償機構を考える上で重要であり、局所的な電子状態が Al の化学シフトに直接影響を与えるわけではないことを示唆している。
AIMD による詳細な構造解析の結果、Al および Si の配位環境が従来考えられていたよりも多様であることが分かった。特に、Al の四面体(AlIV)、五面体(AlV)、六面体(AlVI)の構造が確認され、それぞれの Al-O 結合距離や結合角分布を統計的に評価した。Al-O 結合の空間的な電子密度分布を解析したところ、O 原子の種類(非架橋酸素 OIIまたは三重結合酸素 OIII)によって電子の局在性が異なることが示された。特に、三重結合酸素 OIIIが Al の局所構造に影響を与え、AlVの化学シフトの分布を説明する可能性があることが示唆された。
また、ガラスネットワークの中間範囲秩序(medium-range order)をリング統計解析により評価した。その結果、ガラス中のリング構造は 10~14 員環が最も多く、Al 原子は小さなリングに多く含まれることが確認された。これは、AlOx多面体が SiO4に比べて柔軟であり、歪んだ構造をとりやすいことに起因すると考えられる。
さらに、27Al MAS NMR および 3QMAS NMR スペクトルをシミュレーションし、実験結果と比較した。AIMD による NMR パラメータの統計解析では、化学シフト(diso)と四重極相互作用定数(CQ)の分布を取得し、特にAlVのピークがAlIVとAlVIの間の化学シフト領域に広がっていることを確認した。これにより、実験的に観測されたAlVの化学シフトがAlIVの三重結合酸素OIIIとの相互作用によって説明できることが示された。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Shunta Sasaki, Survival of Fragmented BO4 Units in Highly Modified Rare-Earth-Rich Borate Glasses, Inorganic Chemistry, 63, 23131-23140(2024).
    DOI: 10.1021/acs.inorgchem.4c03264
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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