利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.17】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24NU0048

利用課題名 / Title

ナノ材料のS/TEM分析

利用した実施機関 / Support Institute

名古屋大学 / Nagoya Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

ナノカーボン/ Nano carbon,ナノ粒子/ Nanoparticles,電子顕微鏡/ Electronic microscope,電子回折/ Electron diffraction,ナノチューブ/ Nanotube,電子分光/ Electron spectroscopy


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

武藤 俊介

所属名 / Affiliation

名古屋大学 未来材料・システム研究所

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

大塚真弘,斎藤元貴

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

荒井重勇

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NU-101:反応科学超高圧走査透過電子顕微鏡システム
NU-102:高分解能電子状態計測走査透過型電子顕微鏡システム
NU-105:バイオ/無機材料用高速FIB-SEMシステム
NU-106:試料作製装置群


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

近代社会を支えるテクノロジーにかかわる電池,触媒,磁石,構造材料における諸問題を電子顕微鏡及びそれに付随する分光分析によって解決する.特に走査TEMによって網羅的に得られたビッグデータを機械学習のテクニックを援用して,様々な先進機能材料において従来では得られなかった微小シグナル,微量元素,隠れた欠陥などをナノメートル分解能で抽出・可視化する.

実験 / Experimental

機能性材料の解析のために,目的に応じて反応科学超高圧電子顕微鏡JEM1000K RS,収差補正分析電子顕微鏡EM-1000BU, JEM-ARM200F Cold,電子分光STEM JEM-2100Mを使用した.また試料作製にはFIB-SEM装置NX-5000 ETHOSおよび超低エネルギーイオンビームTEM試料作製装置Nano Millを利用した.

結果と考察 / Results and Discussion

①HVEM-GC-QMSによるセラミックス担持Rh系微粒子触媒反応のオペランド計測:これまで反応科学超高圧電子顕微鏡JEM1000K RSに四重極質量分析計(QMS)およびガスクロマトグラフ(GC)を接続し,触媒反応で生成・消費されるガス反応を高分解能での構造変化の観察と同時に実時間でモニター可能となった1). このシステムを利用し,これまでZrO2担持Rh微粒子モデル触媒のNO浄化過程を明らかにしてきた.さらに今回は現実の触媒環境に近い酸化/還元雰囲気(NO-CO共存)における挙動を明らかにすることを試みた.  
 図1(a)にm/z = 30(NO)とm/z = 44(N2O, CO2)のQMSスペクトルの温度変化,(b)に700℃における微粒子のHRTEM像を示す.NO雰囲気下では,Rh粒子表面に形成されるRhO2酸化膜上でガス分子吸着,乖離,再結合による無害化が進行していたが,NO-CO雰囲気下では,表面酸化膜は形成されず,金属表面における触媒反応が進行していた,またこの温度で放出ガスのGC分析をしたところ,図2に示すようにNOの不完全還元によるN2O生成が確認された.
②低温時効Al合金の機械特性と微細構造解析:Al-Mg-Si合金の低温時効による降伏強度増加の機構についてSTEM分析を行っている2).図3に100℃での時効時間に対するSTEM-EDSマッピング,このデータによる組成相関図2),及びそこから抽出した析出クラスター分布を示す.このデータを基に,各温度における析出物の大きさによって分類を行うと二種類の析出物が分布していることがわかる.各析出物の大きさ,数密度,体積分率及び降伏応力を比較したものが図4である.この図から,硬化はb”相の数密度,体積分率と良く相関していることがわかる.③HAREXCS分析の効率的サンプリングによる測定時間低減法の開発:ビームロッキングに伴う電子チャネリング効果を利用したサイト選択的元素分析法であるHARECXS及び統計ALCHEMI法をこれまで整備してきた.今年度は,計測時間を短縮するためにデータサンプリング法を検討した.統計ALCHEMI法では,ホスト元素の蛍光X線強度によって添加元素の蛍光X線強度を線型回帰することによってサイト毎の占有率を求めるため,少数のサンプリングによって計測精度を下げないためには,ホストの蛍光X線強度がなるべくばらつく分布を持つことが望ましい.いくつかの典型的な結晶構造に対して,電子チャネリング図形(ECP)の輪郭検出によるコントラスト変化が急峻な位置などの標本点選択をすることによって,測定時間を従来に比べ二桁まで短縮することが可能であることを示した.図5にそのようなサンプリング点の選択候補の一例を示した.この原理に従って,実際に標本点の角度座標を指定してイオン化チャネリングデータを取得するスクリプトプログラムを開発した3,4)
④高濃度Si添加GaAsのSi欠陥構造解析:シリコンをドープしたIII-V半導体GaAsは一般にn型であるが,ドープ量が増加するにしたがって徐々にAsサイトをシリコンが占有する様になる.シリコン濃度が1020 cm-3を超えると三角形のFrank型板状欠陥が観察されるようになるが,過去の高分解能TEM(HRTEM)像観察では,シリコンが板状に(111)GaAs面に析出した積層欠陥様構造であることが示唆された[1].しかし最近の原子分解能STEM-EDS分析の結果では,図6に示すように,シリコンは欠陥の余剰(111)GaAs面に有意に検出されない.そこでGaAs中のシリコンの占有サイトおよび各サイト占有率をビームロッキングによるHARECXS法によって求め,さらにその詳細な欠陥配置を放射光によるSi K-XANESスペクトルおよびDFT理論計算によるスペクトル予測との比較によって明らかにすることを試みた5)
図7(左)にHARECXSスペクトルを示す.HARECXSによってシリコンはGaサイトとAsサイトをほぼ等量置換していることがわかった.ただしHARECXSからは置換シリコンが幾何学的にどういう位置関係にあるかまでは判明しない.そこで,図5(右)に示すようにSi K-XANESスペクトル(a)およびいくつかの構造モデルに対する擬ポテンシャルによるDFT理論計算によるスペクトル予測(b-e)との比較によって,最終的に図8に示すようなシリコンのダンベルにガリウム空孔VGaが隣接しているモデルが最もスペクトルの特徴と一致した.
ZnドープW型六方晶フェライトSrZnxFe18-xO27のサイト選択的EELS/EDS解析による磁気異方性向上機構の解明:希土類フリーで安価な硬磁性材料の代表である六方晶W型フェライトのプロトタイプSrFe18O27ではZnを添加すると磁気異方性と飽和磁化が向上することが知られている.そこで本研究では,図9(左)に模式的に示したように,ビームロッキングEDSによる二次元HARECXS法によって,SrZnxFe18-xO27の添加Znが置換する7つあるFeサイトの占有率を定量的に求め,更にEELSと同期したHARECES法及び原子コラム分解能STEM-EELSを用いて,7つのFeサイトのうち,Fe2+とFe3+サイトを決定した.最後に実験で得られた情報を基にSrFe18O27及びSrZnFe17O27の構造モデルを作成し,擬ポテンシャルによるDFT第一原理計算によってFeサイトのBader電荷を計算してZn添加によるFeサイト価数分布の変化およびスピンのアップ・ダウンサイトを求めた.その結果,添加されたZnは単純にFe2+を置換するのではなく,Fe3+ダウンスピンサイトを置換し,これによる電荷バランスを補償するために6goctアップスピンサイトの一部がFe2+→Fe3+に電荷移動することによって,全体の磁気異方性と飽和磁化を向上させる機構が明らかになった(図9(右)参照).
ZnドープW型六方晶フェライトSrZnxFe18-xO27のサイト選択的EELS/EDS解析による磁気異方性向上機構の解明:希土類フリーで安価な硬磁性材料の代表である六方晶W型フェライトのプロトタイプSrFe18O27ではZnを添加すると磁気異方性と飽和磁化が向上することが知られている.そこで本研究では,図9(左)に模式的に示したように,ビームロッキングEDSによる二次元HARECXS法によって,SrZnxFe18-xO27の添加Znが置換する7つあるFeサイトの占有率を定量的に求め,更にEELSと同期したHARECES法及び原子コラム分解能STEM-EELSを用いて,7つのFeサイトのうち,Fe2+とFe3+サイトを決定した.最後に実験で得られた情報を基にSrFe18O27及びSrZnFe17O27の構造モデルを作成し,擬ポテンシャルによるDFT第一原理計算によってFeサイトのBader電荷を計算してZn添加によるFeサイト価数分布の変化およびスピンのアップ・ダウンサイトを求めた.その結果,添加されたZnは単純にFe2+を置換するのではなく,Fe3+ダウンスピンサイトを置換し,これによる電荷バランスを補償するために6goctアップスピンサイトの一部がFe2+→Fe3+に電荷移動することによって,全体の磁気異方性と飽和磁化を向上させる機構が明らかになった(図9(右)参照).⑥ポリマーアロイの無染色化学イメージング法開発:互いに親和性の異なるポリマー混錬(アロイ化)によるミクロ下部構造を可視化することが重要であるが,互いに似通った組成を持つポリマーを高いコントラストで明瞭にS/TEM観察することが課題であった.我々は試料損傷を抑えつつポリマーの化学状態まで特定可能なSTEM-Low-lossスペクトラムイメージ法を提案した[2].ここではスペクトル分離に非負値行列分解法(NMF)の一つである対数尤度最大法(LLM)を用いたが,解のユニーク性、独立成分数の決定、クロストークによる局所解への収束などの問題が存在した. そこでポリマーのLow-loss領域の微細構造がσ一重結合,共役二重結合,ベンゼン環様π結合およびプラズモンに分類でき,ガウス関数でフィット・分解できることに注目し,ポリマーアロイのロバストな化学イメージングを目指した.図10に統計的自動フィットモデルEMPeaksアルゴリズム[3]でガウシアンフィットした一例を示す.これらのピーク位置,相対ピーク面積を特徴量としてサポートベクターマシンを使って分類すると特にπ結合とプラズモンピークにかかわる4つの特徴量が7種の標準ポリマーすべてを正しく分類する記述子であることがわかった.  以上の知見を基に,LDPE, TPU, SEBSの三種のポリマーの標準試料及びそれらを混錬したアロイのSTEM-Low-Loss-SIデータのクラスター解析結果を図11(a)に示す.アロイ化に伴う熱処理によって成分ポリマーが変質していることがわかる.更に(b)に示したようにアロイの相分布の化学マッピングにおいて,各相の界面には反応相が生成していないことも明らかになった.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1(a) 3%NO/3%CO/Ne 50Pa雰囲気下におけるRh/ZrO2 モデル触媒のQMSによるm/z = 30(NO)とm/z = 44(N2O, CO2)のモニターチャート.(b) 700℃におけるRh微粒子のHRTEM像.



図2 700℃でサンプリングした反応ガスのGC―QMS分析結果.



図3 100℃での時効時間に対するSTEM-EDSマッピング(上段),このデータによる組成相関図(中段),及びそこから抽出した析出クラスター分布(下段).



図4 図3のデータをもとにして計算された析出クラスターおよびb”相の分布パラメータと機械特性測定による降伏強度との比較.



図5 Ca2SnO4のECP(a)および検出された効果的データサンプリング位置(赤点+青点)(b).



図6 高濃度シリコンドープGaAs中の(111)欠陥の原子コラムSTEM-EDS分析結果.



図7(左)HARECXS測定の結果.(右)放射光によるSi K-XANESスペクトル(a)およびモデル構造に基づくDFT理論スペクトル(b-e).



図8 実験Si K-XANESとDFTによる理論スペクトルが最もよく一致する欠陥構造モデル.



図9  (左)ZnドープW型六方晶フェライトSrZnxFe18-xO27のサイト選択的EELS/EDS分析によるZn占有サイトおよびFe価数解析の模式図.(右)実験結果および第一原理計算によって明らかになった磁気異方性向上機構.



図10 ポリマーのLow-lossスペクトルをEMPeaksアルゴリズムでガウス関数フィットした結果の一例.



図11(a)三種類のポリマー標準試料およびこれらのアロイ化試料の特徴量プロットによるクラスター分類図. (b) (a)を基に作成したアロイ試料の相分布マップ.記述子空間におけるクラスターの動き(矢印)がアロイ化に伴う熱変性による化学結合変化を示している.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

本研究の一部は,科学研究費補助金 基盤研究A(JP21H04616),基盤研究B(23H01682),挑戦的萌芽(23K17816)の援助を受けた. [1] S. Muto, et al, Philos. Mag. A 66 (2), 257-268 (1992).[2] H. Umemoto, et al, Polymer Journal, 55, 997-1006 (2023). [3] T. Matsumura, et al, Sci. Tech. Adv. Mater. Method, 1, 45–55 (2021).


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Longshu Tang, Development of an integrated high-voltage electron microscope–gas chromatograph–quadrupole mass spectrometer system for the operando analysis of catalytic gas reactions, Microscopy, 73, 358-366(2024).
    DOI: 10.1093/jmicro/dfae010
  2. Genki Saito, Precipitation behavior during low-temperature aging in Al–Mg–Si alloy using STEM-EDS intensity correlograms, Materials Science and Engineering: A, 923, 147686(2025).
    DOI: 10.1016/j.msea.2024.147686
  3. Akimitsu Ishizuka, Efficient data sampling scheme to reduce acquisition time in statistical ALCHEMI, Microscopy, , (2025).
    DOI: 10.1093/jmicro/dfaf004
  4. Akimitsu Ishizuka, Improved dopant fraction variance estimation in statistical ALCHEMI based on correct error propagation rule, Microscopy, 74, 134-136(2024).
    DOI: 10.1093/jmicro/dfae052
  5. Genki Saito, Dopant site analysis of heavily Si-doped GaAs using a combination of electron microscopy and synchrotron radiation, Journal of Applied Physics, 137, (2025).
    DOI: 10.1063/5.0238327
  6. Masahiro Ohtsuka, Dopant site occupancies and iron valence states in SrZn Fe18−O27 W-type hexaferrites using site-selective X-ray/electron spectroscopy, Journal of Alloys and Compounds, 1005, 176028(2024).
    DOI: 10.1016/j.jallcom.2024.176028
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 齊藤元貴ら:Al-Mg-Si合金中の時効生成物のSTEM-EDS分析:日本顕微鏡学会第80回学術講演会, 幕張メッセ, June 3-5, 2024
  2. 唐龍樹ら:オペランドHVEM-QMS-GCシステムの開発と触媒反応解析への応用:日本顕微鏡学会第80回学術講演会, 幕張メッセ, June 3-5, 2024
  3. 齊藤元貴ら:STEM-EDS強度の相関図を用いたAl合金中の微小な時効 生成物の抽出:日本金属学会2024年秋期第175回講演大会, 大阪大学豊中キャンパス, Sep. 18-20, 2024
  4. 齊藤元貴ら:STEM-EDS の組成相関図を用いた Al-Mg-Si合金の析出過程の解析:日本顕微鏡学会第67回シンポジウム, 北海道大学, Nov. 2-3, 2024
  5. 武藤俊介:反応科学超高圧電子顕微鏡によるオペランド触媒反応観察-ガス反応を直視できるか-:第135回触媒討論会特別シンポジウム(招待講演), 大阪大学, Mar. 7, 2025
  6. 梅本大樹, 荒井重勇,武藤俊介:STEM-EELS low-loss スペクトル特徴量を用いたポリマー分類モデル構築の試み:日本顕微鏡学会第67回シンポジウム, 北海道大学, Nov.2-3, 2024
  7. G. Saito et al, Formation of precipitates in Al-Mg-Si alloys during isothermal aging, The International Conference on Aluminum Alloys (ICAA19), Atlanta, GA, USA, June 23-27, 2024
  8. L-S. Tang et al, Exploring Reaction Mechanisms of Rh-based Nanoparticle Catalysts Using an Operando TEM System, The 18th International Congress on Catalysis, Lyon, France, July 14-19, 2024
  9. S. Muto, et al, Operando TEM/GC-QMS System for Simultaneous Observation of Atomic Structural Changes and Catalytic Reaction Kinetics, The 18th International Congress on Catalysis, Lyon, France, July 14-19, 2024
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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