【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.04.15】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
24NU0040
利用課題名 / Title
低消費電力高周波デバイスを実現する高品質κ-Ga2O3の結晶成長と評価
利用した実施機関 / Support Institute
名古屋大学 / Nagoya Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
κ-Ga2O3,結晶成長,透過電子顕微鏡,低消費電力デバイス,高周波デバイス/ High frequency device,電子顕微鏡/ Electronic microscope,イオンミリング/ Ion milling,電子回折/ Electron diffraction
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
原田 俊太
所属名 / Affiliation
名古屋大学 未来材料・システム研究所
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
NU-102:高分解能電子状態計測走査透過型電子顕微鏡システム
NU-106:試料作製装置群
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
本研究では、広いバンドギャップと高い自発分極を持つ半導体材料であるκ-Ga2O3の結晶成長を行い、低消費電力で動作する高周波デバイスの開発を目指した。特に、結晶品質を著しく低下させる回転ドメインの形成抑制を目的とし、スズ(Sn)の添加が結晶成長に及ぼす影響を詳細に評価した。これまでの研究では、κ-Ga2O3の結晶成長において回転ドメインや転位といった欠陥が頻繁に生じ、それがデバイス性能の制限要因となっていた。そこで本研究では、スズ添加がこれら欠陥の抑制にどのように寄与するかを透過電子顕微鏡(TEM)およびX線回折(XRD)を用いて詳細に調査し、結晶成長プロセスの改善と高性能デバイスへの展開を図った。
実験 / Experimental
ミスト化学気相堆積(CVD)法を用いて、スズ(Sn)添加量を0%、0.5%、1%、および2%の4条件で段階的に変化させたκ-Ga2O3結晶を成長させた。各試料について、収差補正電子顕微鏡(JEM-ARM 200F Cold)を用いて透過電子顕微鏡(TEM)および走査透過電子顕微鏡(STEM)による高分解能観察を実施し、結晶内部の微細構造を評価した。TEM/STEM観察においては、試料の断面観察と平面観察の双方を実施し、それぞれの手法が回転ドメインの観察に対してどのような利点を持つかを比較検討した。
回転ドメインの評価にあたっては、結晶中の回転ドメインのサイズ、密度、および分布を詳細かつ定量的に調査した。また、STEMにおいて4次元走査透過電子顕微鏡法(4D-STEM)を導入し、電子プローブを二次元的に試料表面に走査しながら各位置での回折パターンを取得した。これにより得られた四次元のデータセットから、回転ドメインの構造特性や界面の原子配列を可視化し、従来の観察手法では困難であった微細構造情報を明らかにすることが可能となった。
結果と考察 / Results and Discussion
実験の結果、スズの添加量と成長温度が回転ドメインの形成に大きな影響を与えることが明らかとなった。スズを添加しない条件下では多数の回転ドメインが観察され、そのサイズおよび密度が結晶品質を著しく低下させていることが確認された。一方、スズを適切に添加した条件下では回転ドメインの形成頻度が顕著に低下し、欠陥密度も大幅に減少した。これにより、高品質で均一なκ-Ga2O3結晶の成長が可能となった。
さらに平面観察を用いたTEM/STEM評価を通じて、回転ドメインのサイズと空間分布を詳細に評価したところ、最適条件では回転ドメインのサイズが微小化し、分布密度も著しく低下することを確認した。また、STEMを用いた4次元STEM(4D-STEM)解析を行うことで、電子プローブ位置ごとの回折パターンを取得し、回転ドメイン周辺の原子配列を視覚的かつ定量的に詳細解析することが可能となった。その結果、スズ添加により成長界面のエネルギー状態が安定化され、ドメイン形成エネルギーが増加し、回転ドメイン形成が抑制されることが示唆された。
また、XRDによる解析結果はTEM/STEM観察結果と一致し、スズの添加が結晶構造の均一性と配向性を著しく改善し、結晶内の構造的欠陥を減少させていることを裏付けた。スズ添加量の最適化と成長温度管理により、κ-Ga2O3結晶の品質向上およびその再現性が確保され、低消費電力高周波デバイス開発に不可欠な結晶特性が実現された。
本研究で得られた知見を基に、2025年度は結晶成長プロセスをさらに洗練させることで、回転ドメインの完全な抑制を目指す。また、得られた高品質結晶を用いたデバイス試作および特性評価を実施し、具体的な性能向上の実証を進める計画である。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件