利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.05】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24UT1230

利用課題名 / Title

センサ一体型スマート工具に関する研究

利用した実施機関 / Support Institute

東京大学 / Tokyo Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)その他/Others(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

切削加工、熱電対、焼結、超高合金、洗浄、ドラフトチャンバー


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

長藤 圭介

所属名 / Affiliation

東京大学機械工学専攻

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UT-800:クリーンドラフト潤沢超純水付


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

切削加工中に発生する高温は, 工具摩耗, 工具寿命, 表面性状に影響を与えると同時に, 加工精度にも大きく関わる[1]. このため, 加工中のリアルタイム温度測定は, 重要な意味を持つ. 本研究の目的は, 複雑形状工具にも応用可能な高精度かつ安定性を持つ刃先温度測定技術を開発することである.

実験 / Experimental

本研究では, 目的を達成するために, 積層造形の過程で熱電対を埋設した工具を造形, 一体で焼結することにより, 温度測定が可能な切削工具を新しく開発した. 提案手法は侵食熱電対[2]の応用であり, 1に示すように, 工具と埋設した素線で熱電対を形成し, 工具表面の接点の温度を測定する. 従来手法では, 穴を開けて絶縁コーティング済み熱電対を差し込み, 接着剤で固定していた. それに対して提案手法では一体での焼結により, 絶縁コーティングを施した熱電対素線が周囲の工具材料とすき間なく接合される. 熱電対を形成する2種類の金属の間の絶縁層が小さいほど精度と応答性が向上する[3]ため, 提案手法の方が従来手法と比べて温度測定の精度と安定性が向上すると考えられる. また, 積層造形で造形するので複雑形状の工具にも応用可能である.
熱電対素線は直径200 µmのプラチナ線であり, 絶縁コーティングはCVD法で厚さ5 µm程度のAl2O3層を製膜した. 材料の選定理由には, プラチナの融点(1769℃)が焼結温度よりも十分高いこと, プラチナとAl2O3の熱膨張率が近いため応力によりコーティングが剥離しにくいことが挙げられる. コーティングした熱電対を洗浄する目的で,ドラフトチャンバ(UT-800)を利用した.工具は三角形の切削インサートで, すくい面の刃先から0.7 mmの位置に接点ができるように設計し, 材質はSUS630で製作した. 埋設位置で積層造形を一時停止し絶縁コーティング済み熱電対素線を設置後, 造形を再開することで, 工具に埋設した. 造形後, 工具と埋設した絶縁コーティング済み熱電対素線を一体で焼結した. 焼結の最大温度は1300 ℃で, 焼結時間は約24時間である. 図2は, 焼結後に表面を研磨し接点を作製した工具である.3は, 提案手法で製作した工具と比較用に従来手法で製作した工具の接点をレーザ顕微鏡で観察した画像である. 提案手法で製作した工具は, 従来手法で製作した工具と比較すると接点が連続的に形成されていることが確認できる. これにより, 接点が壊れにくく安定した測定ができると考えられる.
提案手法の工具を切削加工に使用して加工温度を測定できることを実証するために, 実際に製作した工具でアルミ製ワークの旋削加工を行い加工中の温度を測定した. 切削力は加工温度に大きな影響を持つため, 3軸力センサ(Kistler, 9027C)により温度と同時に切削力も測定した. 用いたワークの材質はA6063であり, 製作した工具で切削できるように直径100 mmの円柱をフィン状に加工したものである. 加工には, 複合工作機械(中村留精密工業, NTJ-100)を使用した. 図4に工具のセット方法と実験セットアップを示す.

結果と考察 / Results and Discussion

回転速度1000 rpm送り0.4 mm/rの条件で10秒間加工したときに測定した加工温度と切削力のグラフを図5に示す. 上側のグラフが温度で, 下側は切削力であり, 切削力に関しては主分力Fhと背分力Fvを表している. この結果より, 製作した工具で測定した温度は, 切削力の動向と対応していることが分かった. 具体的には加工始めと終わりでの急激な温度変化を捉えており, さらに工具がワークに当たり始めるときにワークの偏心の影響で一瞬断続切削が起こる部分の温度変化も観察することができている. 測定温度もアルミの切削加工の温度として妥当な値である.また, 切削条件を変えて加工を行うことで, 測定温度が切削力から計算した仕事率と相関があることを確認できた. 図6は, 送り速度を0.04 mm/rに固定して回転速度を変化させたときの測定温度と仕事率のグラフ(左)と回転速度を800 rpmに固定して送り速度を変化させたときのグラフ(右)である. これらのグラフから, 測定温度が仕事率と同様に単調増加していることを確認できた. このことからも, 測定温度が妥当であると考えられる.加工実験では, 合計50 m程度の加工を行った. 加工後の工具を観察したところ, 目立った摩耗は発生していなかった. また, 接点付近にワークの成分のアルミが付着していたが, 温度測定には影響はなかった. 
本研究では, 積層造形で造形した工具と絶縁コーティングを施した熱電対素線を一体で焼結することによって, 工具に熱電対を統合する手法を提案した. 熱電対や工具などで, 適切な材料や製作方法を選定することで, 提案工具の製作に成功した. 製作した工具の性能評価実験を行い, 製作した工具を実際の加工に使用し温度を測定するための性能があることを実証した. 本研究では, 熱電対と工具の一体造形・焼結のコンセプト実証を目的として, 積層造形技術が一般に普及しているステンレスで単純な形状の切削用インサートを製作した. 今後の展望としては,鋼材などの金属切削加工により一般的に使用される超硬合金などの材質で, 同じ手法を用いて製作すること, エンドミルなどの複雑形状の工具にも応用することなどが挙げられる.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 提案手法の概要図



図2 製作した工具



図3 工具の接点. (a)提案手法, (b)従来手法



図4 (a)工具セット方法, (b)実験セットアップ



図5 加工実験結果. (a)測定温度, (b)切削力



図6 測定温度と仕事率の関係. (a)送り一定, (b)回転一定


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 齋藤樹,王超,宮下剛,木崎通,谷渕栄仁,廣崎浩司,熊井健二, "刃先温度測定のために熱電対・絶縁体・工具を一体造形した切削工具の開発,2025年精密工学会春季大会学術講演会講演論文集、2025年3月17-19日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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