利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.04.18】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24WS0411

利用課題名 / Title

酸化物ナノ粒子の室温強磁性の起源

利用した実施機関 / Support Institute

早稲田大学 / Waseda Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed

キーワード / Keywords

セラミックスデバイス/ Ceramic device,ナノ粒子/ Nanoparticles,電子顕微鏡/ Electronic microscope


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

高瀬 浩一

所属名 / Affiliation

日本大学 理工学部 物理学科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

府川明弘,石山和樹,谷川哲彦

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

WS-012:電界放出型 走査電子顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

1.はじめに この20年、磁気モーメントの起源となるd電子を持たない、または、d軌道が全て占有されている半導体ナノ粒子において室温強磁性の発現が報告されている。これらの強磁性が観測されるのは、主に表面効果が顕著になるナノ粒子や薄膜であることから、磁気モーメントの起源はナノ粒子表面の欠陥がもたらす不対電子であると考えられている。2.目的 これまで我々の研究では代表的な酸化物半導体であるZnOやTiO2ナノ粒子の強磁性について報告してきた。TiO2の場合、酸素が欠損することで3d電子が不対電子になり、これが磁気モーメントの起源となっていると考えられる。では、主役のd電子の主量子数が変化すると磁気的性質はどのように変わるのであろうか?そこで本研究では、4d電子を持つY2O3絶縁体に注目し、ナノ粒子の磁性とその水素アニールの効果について調査した。

実験 / Experimental

3.実験方法  本研究では、出発試料をレアメタリックから購入したY2O3粉末(99.99%)とした。まず、その出発試料に対して超伝導量子干渉磁束計(SQUID)を用いた磁化測定を行った。強磁性を示さないことが確認できた試料に対し、遊星ボールミルを用いて、大気中にて粉砕処理を施した。さらに、粉砕後の試料に対し水素アニール処理(400℃, 600℃, 800℃, 1000℃, 6 h)を行った。それぞれの試料について、形状評価をFE-SEM(WS-012)、結晶構造評価を粉末X線回折(XRD)測定、磁気特性の評価として磁化測定で実施した。

結果と考察 / Results and Discussion

4.実験結果 図1に出発試料(a)と1時間粉砕した試料(b)のSEM画像を示す。購入した試料は、2 μm以上の粒子から構成されているが、1時間粉砕した試料では、粒子が全体的に小さく丸みを帯び、凝集している。ここからボールミルによる粉砕によって、ナノ粒子が合成できていることが言える。次に、出発試料と一時間粉砕した試料の磁化の磁場依存性(M-H)の結果を図2に示す。出発試料であるY2O3の粉末は負の傾きを示しており反磁性であることが分かる。そして、1時間粉砕後ではヒステリシスが見られる。図3は、各粉砕試料のXRDプロファイルである。1時間粉砕を行うと、結晶構造が立方晶から単斜晶へ変化していることがわかる。水素アニールを実施すると、結晶構造は、元の構造に戻る振る舞いを見せ、600℃以上の温度では、ほぼ、元の結晶構造に戻っている。また、アニールに伴う結晶性の回復のため回折ピークの半値幅も鋭くなっていることがわかる。図4はアニール温度別の磁化の磁場依存性をあらわしたものである。すべてのアニール条件で、ヒステリシスは観測されている。図5は、飽和磁化とアニール温度の関係を示したものである。400℃ではほとんど変化なく、500℃、600℃では飽和磁化Msが減少し、以降は増加した。また、水素アニール後に大気中で熱処理(1000℃,6 h)を行うと飽和磁化は減少した。強磁性と同時に観測されている常磁性磁化率を表1に示す。400℃から600℃で飽和磁化と同様に磁化率も減少している。これは、磁化に寄与する局在電子数の減少を意味しており、水素の1s電子とイットリウムの4d電子の相互作用の結果である。600℃以上の温度では磁化率も増加した。これは、水素と試料の酸素が結合した結果、酸素が取り除かれ、磁性に寄与する不対電子が増加したためであると考えられる。また、その後大気アニールを行うと欠損した酸素がおぎなわれ欠損数が減少し、磁化の減少を引き起こしたと予想される。最後に、拡散反射測定を行い、これら試料の光学特性を評価した結果、全ての試料でバンドギャップが確認された。
5.まとめ 本研究では、半導体ナノ粒子が持つ室温強磁性の起源を解明するために1時間粉砕したY2O3を水素アニール処理しM-Hがどのように変化するのか観察した。その結果、飽和磁化の大きさがアニール温度によって変化した。飽和磁化が600℃まで減少した理由は、酸素欠損によって局在していた電子が水素が持つ電子と相互作用し遍歴的になったからであり、そこから増加した理由は、Y2O3の持つ酸素が水素と反応することで物質の外へ飛び出し、新たな磁気モーメントを生み出したからだと考えられる。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. 出発試料(a)と一時間粉砕(b)のSEM画像



図2. 出発試料と1時間粉砕のM-Hカーブ



図3. 水素アニール処理をした試料のXRDパターン



図4. 水素アニール前後のM-Hカーブ



図5. アニール温度別の飽和磁化



表1. 常磁性成分の磁化率の変化


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

6.参考文献[1] S. Ghose et. al. RSC Adv., 5, 99766-99774 (2015).[2] B. Choudhury and A. Choudhury. J. Appl. Phys. 114, 203906 (2013).


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 石山 和樹1、府川 明弘2、中澤 拓斗2、伊藤 風音2、馮 小介2、谷川 哲彦1、犬井 響煕1、植木 健太1、高瀬 浩一1 (1.日大理工、2.日大院理工) "Y2O3ナノ粒子の磁気特性" 応用物理学会秋季学術講演会 新潟市 令和6年9月
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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