利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.03.18】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24WS0321

利用課題名 / Title

拡張ナノ流体工学を用いた単一細胞分析デバイスの研究

利用した実施機関 / Support Institute

早稲田大学 / Waseda Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed

キーワード / Keywords

生体組織/ Living tissue, 薄膜/ Thin films, 単一細胞分析デバイス/ Single cell analysis device,PVD,スパッタリング/ Sputtering,リソグラフィ/ Lithography,光リソグラフィ/ Photolithgraphy,膜加工・エッチング/ Film processing/etching,流路デバイス/ Fluidec Device,μTAS,電子顕微鏡/ Electronic microscope,走査プローブ顕微鏡/ Scanning probe microscope,集束イオンビーム/ Focused ion beam,光学顕微鏡/ Optical microscope,MEMS/NEMSデバイス/ MEMS/NEMS device


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

清水 久史

所属名 / Affiliation

神奈川県立産業技術総合研究所

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

由比藤 勇,澁谷 義紀,高岸 和哉

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

加藤 篤,野﨑 義人,伊藤 寿之,星野 勝美

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術代行/Technology Substitution


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

WS-007:ICP-RIE装置
WS-010:集束イオン/電子ビーム加工観察装置
WS-012:電界放出型 走査電子顕微鏡
WS-016:レーザー直接描画装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

再生医療、がん治療、組織工学などの分野において、生体組織を構成する細胞集団の不均一性を明らかにするために単一細胞分析の重要性が高まっている。従来の単一細胞分析は、DNAやmRNAなど増幅が可能な核酸に注目したものがほとんどであったが、細胞機能の完全解明にはタンパク質の分析が不可欠である。そこで本研究では、単一細胞プロテオミクス解析を実現するため、10-1000 nmスケールの空間(拡張ナノ空間)を活用し、細胞試料の前処理から免疫分析、高感度検出までを統合したデバイスや、質量分析器に導入するためのインターフェースとしてマイクロ流路を開発する。マイクロ流路は、微細な流路の作製された2枚の基板を高精度にアライメントし貼り合わせることで作製されるが、流路面に流体の流れを乱す微細な突起、凹みが発生するという問題を発生しやすい。ここでは、この原因を解明、対策し、最適な工程の確立を目的に検討を行った。

実験 / Experimental

基板は合成石英ガラスで、流路はCr膜をマスクにICP-RIE装置(WS-007)及び中性磁気放電プラズマ装置(ULVAC製 NLD-570)でエッチングし、作製した。Crマスクは、高周波スパッタリング装置(キヤノンアネルバ製 SPC-350)で成膜したCr薄膜(膜厚500 nm-1 μm)をレーザー直接描画装置(WS-016)、ウェットエッチング法で処理し形成した。ウェットエッチング液はCr-201(関東化学製)である。ICP-RIE装置のエッチングガス/圧力はC3F8/0.65Pa、NLDはCHF3+SF6/0.3Pa、パワー/バイアスはそれぞれ800 W/100 W、〜1200 W /〜70 Wである。 プラズマエッチングでは被エッチング面の清浄度が重要であり、ここでは、専用のCrエッチング装置、レジスト剥離装置及び多重波流水超音波洗浄装置(すべて自作)を適用し工程の安定化を図った。観察装置は光学顕微鏡、電界放出型走査電子顕微鏡(WS-012)(SEM)、集束イオン/加工観察装置(WS-010)(FIB/SEM)及びAFM装置(ビーコ製 NanoScope Ⅲa)である。

結果と考察 / Results and Discussion

 図1 (a)、(b)、(c)は、ICP-RIEで約25μmエッチングした後の基板表面の光学顕微鏡像およびSEM像である。エッチング面は概ね平坦であるが、Aで示す様な多数の斑点が生じている。図2は斑点部をFIBで断面観察した結果で、これより、斑点が深さ数umの凹みであることが分かる。また、図3は凹みの発生個所を光学顕微鏡で観察した結果で、図中の黒点が凹みである。多数の凹みが特異な分布を形成している。例えば、(a)は”流れ模様”、(b)は”ウォーターマーク状”に多数の凹みが集中しているが、(c)ではCrマスク近傍に凹みは見られない などである。 次に、このような特異な形態を示す凹みの発生原因を追究した。 凹みがエッチング中に次々と発生するならばその大きさは異なるはずであるが、図1に示したように、大きさは大凡均一であった。これを確認するためエッチング時間を変えて凹みの発生状況を確認した。その結果を図4に示す。 (a)はICP-RIEで1 h、(b)は追加で1 h(合計で2 h)エッチングした基板の同一個所の光学顕微鏡像である。(b)2hのエッチングで生じた凹みの大きさは(a)1hに比較し大きくなっている。すなわち、凹みの大きさはエッチング時間に依存しており、大きさが同じであるということは、エッチング時間に差がないことを示している。 さらに、凹み発生箇所を調べる為に(a)(b)図を重ね、追加エッチング1hでの新たな凹み発生の有無を調べた。その結果、(c)両図は完全に重なり、追加エッチング中における新たな凹みの発生は確認できなかった。 以上より、凹みの発生はRIE条件、装置内雰囲気などに起因しているとは考えにくく、エッチング前の基板表面に原因があると推察できる。 懸念される工程はCr膜のウェットエッチング工程およびレジスト剥離工程であるが、特に、Cr膜のウェットエッチングは、Cr膜表面に酸化層が残り易いことが知られている。そこで、Cr膜エッチング後の基板表面の解析を行った。図5はCr膜除去前後のAFM像で(a)はブランク基板、(b)はCr膜エッチング後の結果である。(a)ブランク基板に比較し、(b)Cr膜をウエットエッチングした面からは直径数10nmと非常に微細な異物(残渣)が多数観察された。 残渣が非常に微細であることから、これ以上の解析はできなかった。さらに、この残渣が凹みに成長するメカニズムの詳細は不明であるが、Cr膜のウエットエッチング、および、その後のリンス工程でも取れにくい残渣が生じている可能性は大きい。 そこで、図6 (a)(b)に示す専用のCrエッチング装置、レジスト剥離装置を導入し、さらに、純水リンスに(c)超音波流水洗浄装置を用いることでCrエッチング液、レジスト剥離液残渣の洗い流しを安定かつ確実にした。超音波流水洗浄は純水を流しながら、周波数28, 45, 100 kHzの超音波を1 minづつ、合計で30 min印加し処理した。 以降はRIE条件の自由度が高い中性磁気放電プラズマ装置(NLD-570)を適用し条件の最適化を図った結果である。 図7 (a)、(b)はNLDのアンテナパワーに対するSiO2とCrのエッチング速度、(c)は選択比を示す。SiO2のエッチング速度は500 W程度まで徐々に大きくなっていくが、逆にCrのエッチング速度は小さくなっていく。この結果、アンテナパワーが高まるとともにSiO2/Crの選択比は大きくなり、最大で約200に達した。 また、NLD処理後のCr膜表面は変色しており、反応生成膜が堆積していた。バイアスパワーが固定であることから、化学エッチング作用の増加がCr膜のエッチング速度を低下させていると思われ、具体的には、Cr膜上への反応生成膜の堆積速度と物理エッチング速度の関係で決まると推定できる。 化学エッチング作用は等方的あることから、残渣の下までエッチングされることで平坦になり易いことを期待できる。 図8は確認の結果で、NLDのアンテナパワーが250 W、500 W、800 Wでのエッチング面のSEM像である。 250 Wでは多数の凹みが見られるが、800 Wでほとんど無くなっており、改善の効果が明らかである。 以上より、低アンテナパワーでは物理エッチング作用が、高アンテナパワーでは化学エッチング作用が強くなり、凹みの発生に差が生ずると考えられる。 被エッチング面を清浄にし、さらに化学エッチング作用の強いRIE条件を適用することで、凹みのないSiO2の深堀加工が可能になった。 図9に本条件を適用したマイクロ流路の一例を示す。30 μmエッチングした流路面は平坦であり、良好な素子を作製出来ている。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 RIE後に生じたSiO2面の凹み



図2 FIBによる斑点部の断面観察



図3 RIEで生じた凹みの発生状態



図4 RIEのエッチング時間に対する凹みの変化



図5 Cr除去前後のAFM像



図6 被エッチング面の清浄化に用いた装置



図7 SiO2、Crのエッチング速度のNLDアンテナパワー依存性



図8 NLDアンテナパワーと凹み発生の関係



図9 適正条件で作製したマイクロ流路素子の一例


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

早稲田大学技術スタッフの先生方には、装置の操作指導、FIB/SEMによる分析、解釈など、多々ご支援を頂きました。深謝致します。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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