利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.07.24】【最終更新日:2025.07.23】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22MS1030

利用課題名 / Title

ベイポクロミズム及びエレクトロクロミズム特性を示すパドルホイール型ロジウム二核錯体

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion

キーワード / Keywords

金属錯体, ベイポクロミズム, エレクトロクロミズム


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

矢野 なつみ

所属名 / Affiliation

島根大学大学院自然科学研究科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators Excluding Supporters in the Hub and Spoke Institutes

片岡 祐介

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Supporters in the Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-205:単結晶X線回折(CCD-1)
MS-207:単結晶X線回折(微小結晶用)
MS-213:X線光電子分光
MS-219:SQUID(MPMS-XL7)
MS-223:熱分析(固体、粉末)


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 近年、電圧印加に応じて物質の色が可逆的に変化するエレクトロクロミズム現象を示す金属錯体は、基礎化学的な観点のみならず、電子ペーパー等の応用面からも注目を集めている。これまでに、有機化合物や金属錯体などによるエレクトロクロミズムに関する研究は多数報告されてきたが、その殆どは紫外・可視光領域での吸収帯の変化に留まっている。一方で、紙幣の偽造防止技術などに用いられる機能性インクでは、電圧印加に応じて近赤外領域の吸収帯を変化させる材料が求められる。本研究では、可視光領域と近赤外領域において顕著なエレクトロクロミズム特性を示す金属錯体の開発を目指し、π系架橋配位子である4,6-dimethyl-2-Hydroxypyridine (dmhp)をロジウム二核骨格に直接配位させたパドルホイール型ロジウム二核錯体[Rh2(dmhp)4]を開発した。上記の配位子は非対称構造であるため、ロジウム二核骨格に対して4つ配位する場合には、複数個の異性体が生成すると考えられる。そのため、開発したロジウム二核錯体を単離・精製し、それらの単結晶サンプルの単結晶X線構造解析を行った。得られた二種類のパドルホイール型ロジウム二核錯体は、それぞれベイポクロミズムとエレクトロクロミズム特性を示すことを明らかにした。エレクトロクロミズム特性に関しては、ロジウム二核骨格の価数が変化しスピンを持つことが考えられるため、磁化率測定を行った。

実験 / Experimental

酸化還元前後の[Rh2(dmhp)4]の合成とそれらの結晶化は、申請者の所属機関にて実施した。測定に使用したサンプルは、結晶化溶媒に浸した状態で分子科学研究所に持参した。単結晶X線構造解析測定は、単結晶X線構造解析装置Rigaku MERCURY CCD-1、CCD-2、HyPix-AFCを使用した。測定温度は150 Kに設定した。単結晶は、クライオループ及び流動パラフィンを使用してゴニオメーターヘッドに固定した。測定で得られた反射データは、CrystalClearまたはCrysAlisProで処理し、Crystal Structure等のソフトウェアを使用して構造解析及び精密化を行った。 XPS測定の装置は、Scienta光電子分光装置を使用した。測定の前処理として、カーボンテープを使用して試料をホルダーに固定した後に、試料準備室に導入して真空引きを行い分析室へ導入した。測定は、中和電子銃を照射して測定を実施した。酸化還元後の[Rh2(dmhp)4]+に対しては、SQUID (MPMS-7, MPMS-XL7)による磁化率測定を行った。実際の測定は、申請者の所属機関にて作製した粉末をゼラチンカプセルに詰めて分子科学研究所に持参し、測定用ストローに固定して行った。

結果と考察 / Results and Discussion

合成した[Rh2(dmhp)4]の単結晶X線構造解析を行うと、ロジウム二核骨格に対して4つのdmhpがcis-2:2配置または3:1配置で配位した構造を形成していることが明らかになった。更に、cis-2:2配置の[Rh2(dmhp)4]に対して一電子酸化剤であるアミニウム塩(4-BrC6H4)3N・SbCl6を反応させると、パドルホイール型ロジウム二核構造は変化しておらず、カウンターイオンとしてSbCl6-をパッキング構造内に有するcis-(2:2)[Rh2(dmhp)4]SbCl6を形成していることが確認できた。cis-(2:2)[Rh2(dmhp)4]のXPS測定では、Rh3dに相当するピークが309.3 eVに検出された。この値は、同じ価数を有する[Rh2(O2CCH3)4(H2O)2]と殆ど同じ値であることから、cis-(2:2)[Rh2(dmhp)4]はRh2(II,II)の価数であることが確認できた。cis-(2:2)[Rh2(dmhp)4]SbCl6に対して磁化率測定を実施した結果、室温付近にてμeffの値が1.72であったことから、スピンを1つ有しておりロジウムの価数はRh2(II,III)であることが明らかになった。得られたcis-(2:2)[Rh2(dmhp)4]およびcis-(2:2)[Rh2(dmhp)4]SbCl6の吸収スペクトルを申請者の所属機関で測定すると、cis-(2:2)[Rh2(dmhp)4]はピリジンなどの様々なドナー性溶媒に対してベイポクロミズム特性を示すことが明らかになった。一方でcis-(2:2)[Rh2(dmhp)4]SbCl6は、可視光領域に殆ど吸収帯を有しておらず溶液の色も殆ど透明であったが、近赤外領域に吸収を有していることが確認できた。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

測定を行うにあたって、ご指導、ご助言を頂きました技術支援者の伊木様、岡野様、藤原様、宮島様に感謝申し上げます。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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