利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.07.16】【最終更新日:2025.05.14】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22MS1024

利用課題名 / Title

無脊椎動物の生殖腺刺激ホルモンペプチドの探索と解析

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

生殖腺刺激ホルモン, ペプチドホルモン, 無脊椎動物


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

大野 薫

所属名 / Affiliation

自然科学研究機構 基礎生物学研究所

共同利用者氏名 / Names of Collaborators Excluding Supporters in the Hub and Spoke Institutes

牧野 由美子

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Supporters in the Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-224:MALDI-TOF質量分析


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

ペプチドの生殖腺刺激ホルモンについては、脊椎動物において詳細に研究が行われているが、それ以外の生物においては殆ど分かっていない。我々は進化的に脊椎動物へ繋がる新口動物のうち、棘皮動物のヒトデとナマコに置いて、該当するペプチドホルモンが神経に含まれるリラキシン族のペプチドであることを精製により明らかにした。一方、進化的により脊椎動物に近い脊索動物のナメクジウオで、生殖腺刺激ホルモンは脊椎動物型のペプチドの祖先遺伝子であろうと考えられて来た。しかし、ゲノムの網羅的な探索からは該当する遺伝子は見つかっていない。我々は、リラキシン遺伝子がその役割を担っている事を証明し、新口動物における生殖腺刺激ホルモンの大きな変換が脊索と脊椎の間で起こった事を明らかにしたいと考えている。

実験 / Experimental

実験は大きく2つに分けられる。
(1)棘皮動物において、複数種類のヒトデやナマコでは、リラキシン族遺伝子から転写・翻訳され、編集された成熟型ヘテロダイマーペプチドが、in vitroでもin vivoでも10-8 Mから10-9 Mの濃度で卵成熟活性を持ち、放卵、放精とそれに付随する生殖行動を惹起する事を確認している。この現象が広く棘皮動物全般、すなわち、クモヒトデ、ウニ、ウミシダ、ウミユリでも普遍的に見られる事を証明するため、化学合成ペプチドを精製し、自然酸化での架橋を行って成熟型ペプチドを作り、生理活性試験を行う必要がある。これに際して、単鎖ペプチドや架橋ペプチドのRP-HPLC精製を基礎生物学研究所で行い、どの分画が目的物の分画なのか特定するため、ARIMのMALDI-TOF質量分析装置(分子研 MS-224)を使用した。加えて、同様にナメクジウオにおけるリラキシン族ペプチド遺伝子について、既にゲノム及びmRNAデータより4種類の候補遺伝子を見出していて、これらの化学合成ペプチドも同様に精製し、架橋を行って成熟型ペプチドを作り生理活性試験を行う必要がある。こちらでもARIMのMALDI-TOF質量分析装置を使用した。
(2)ナメクジウオの卵成熟誘起活性は、背中側に存在する神経管に含まれている事を確認している。この神経管より抽出した生理活性保有サンプルをARIMのMALDI-TOF質量分析装置で分析し、候補の4種類のリラキシン族遺伝子由来の成熟型ペプチドのいずれかに該当するシグナルを検出すべく測定を行った。

結果と考察 / Results and Discussion

(1)の実験では、単鎖ペプチドのRP-HPLC精製はペプチドごとの困難さはあったが、目的に叶う精製を行う事ができた。しかし、自然酸化による架橋後、正しく架橋されたペプチドを単離する段階で、多量に含まれている目的外のペプチドにより、目的のペプチドを単離するのが極めて難しい事が明らかとなった。一般にリラキシンを含む、インシュリン族の成熟ペプチドを自然酸化で得る事は、不可能ではないとされているが、その難易度は2本のペプチド鎖のアミノ酸配列に依存し、今回合成を試みた複数種類のリラキシン遺伝子では、様々な自然酸化の条件を試してみたが、それいずれの条件においても、生理活性実験に供する量の成熟型ペプチドを得る事は難しい事が分かった。このため、合成に必要な費用はより高額となるが、化学合成時に、後に選択的架橋が可能となるよう、システインにAcmとtBuの保護基を着けて大量に合成し、RP-HPLC精製後、ARIMのMALDI-TOF質量分析装置で目的分画を識別すると共に、不純物混入の有無も判断、必要に応じて再度の精製を行い十分な純度の単鎖ペプチドを得て、選択的架橋反応を行うことで、再現性よく純分量の成熟型ペプチドを得る手法を選択すべきであると判断した。2023年度はこの選択的架橋で目的の成熟型ペプチドを合成する予定である。
 (2)の実験については、昨今の気候変動の影響か、2022年度固有の原因かは不明であるが、実験に必要とされる量のナメクジウオを捕獲する事が困難であった。入手できた少ないナメクジウオから、神経管を単離し、抽出物を得て、ARIMのMALDI-TOF質量分析装置で分析を行なったが、十分な強度のシグナルを再現性を持って得る事はできなかった。共同研究者の九州の水産実験所で、気象条件の許す限りの頻度で採集のために船を出して何時間もかけて捕獲を試みたが、残念ながら、十分な漁を得ることができなかった。2023年度は、この失敗を教訓に、九州の水産実験所だけでなく、他の水産実験所の協力を仰ぎ、生理活性試験やこの実験のために必要な量のナメクジウオを得られるように準備する。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

ARIMのMALDI-TOF質量分析装置をご担当して、様々な支援をしていただいた、技官の売市様、長尾様、技術支援員の藤川様には深く感謝いたします。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Iwao Tanita, Artificial rearing of Actinopyga lecanora (Holothuroidea: Holothuriida) with spawning induction using relaxin: Lecithotrophic short larval period, Aquaculture, 567, 739226(2023).
    DOI: 10.1016/j.aquaculture.2022.739226
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 谷田巖,岩崎隆志,三田哲也,大野薫,吉国通庸,“オオクリイロナマコの産卵誘発と人工種苗飼育” 水産増殖学会 令和4年12月3日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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