【公開日:2025.06.16】【最終更新日:2025.04.17】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22UT0037
利用課題名 / Title
量子ドットの構造解析
利用した実施機関 / Support Institute
東京大学 / Tokyo Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed
キーワード / Keywords
電子顕微鏡/Electron microscopy,量子効果デバイス/ Quantum effect device,量子効果/ Quantum effect
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
森山 喬史
所属名 / Affiliation
昭栄化学工業株式会社
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
熊本明仁
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
コロイド状量子ドットは,直径が1-20 nm程度の半導体ナノ粒子であり,量子閉じ込め効果によってサイズに依存した特有のバンドギャップを形成する光学材料である.発光色を司る半導体材料をよりバンドギャップの大きな半導体材料で覆ったコア/シェル構造の量子ドットは高い発光強度と安定性を有し,高輝度でかつ彩度の制御性に優れた材料開発が進められ,ディスプレイなどの光学材料としての応用が期待されている.このような材料開発では,半導体ナノ粒子の結晶性や結晶形態が蛍光特性にどのような影響を与えるかについて議論されている.近年InP系量子ドットでは,塩素の存在により光学特性がさらに向上する結果が得られているが,本研究では塩素がどのようなメカニズムで光学特性を変調しているかを理解することを目的に,塩素ドープしたInP系コア/シェル型量子ドットの構造解析を行った.
実験 / Experimental
塩素をドープしたコア/シェル/シェル構造のInP/ZnSe/ZnS量子ドットを,カーボン支持膜付きMoグリッド上に滴下,真空乾燥して観察試料を作製し,環境対応型超高分解能走査透過型電子顕微鏡(JEM-ARM200F cold FE)を用い高角度環状暗視野(HAADF)-STEM観察とエネルギー分散型X線分光法(EDS)による元素マッピングを行った.カーボンコンタミネーションによる観察阻害を防ぐため,加熱ホルダーを用いて事前に試料加熱をおこなった.
結果と考察 / Results and Discussion
シェル形成時に塩素を添加した場合のInP/ZnSe/ZnS量子ドットの粒子形状の変化をFig. 1(a, b)にて比較する.塩素を添加した場合,より均一なシェルが形成され,粒度分布の狭い粒子が得られている.蛍光特性においては,Fig. 1 (c)に示すように塩素を添加することにより蛍光量子効率(PLQY)の向上が見られ,さらに半値全幅(FWHM)の狭いシャープなスペクトルが得られた. Fig.2 (a)に,[1-10]晶帯軸入射により得た塩素ドープInP/ZnSe/ZnS量子ドットの原子分解能でのHAADF-STEM像を示す.吸収スペクトルから推察されるInPコアの粒径は2.8 nm,組成比から計算したZnSeおよびZnSのシェル厚みはそれぞれ1.6 nmおよび0.1 nmである.粒子は閃亜鉛鉱型構造をしており,アニオンとカチオンの原子カラムからなるダンベル構造を確認することができる.HAADF像では原子番号の約2乗に比例したコントラストが得られるため,InPコアとZnSeシェルではカチオンとアニオンのコントラスト大小関係が逆転し,InPコアの位置を推察することができる.HAADFコントラストから推察したInPコアの位置をFig.2 (b)に図示する.この像から,InPコアは粒子の中心付近に存在しており, InPコアに対してコヒーレントなZnSeシェルの成長に成功していることを確認できた.また,Fig.2 (a)中の黄色の矢印で指し示すように,粒子内には複数の積層欠陥が存在している.それにも関わらず,PLQYは87%の高い値を示しているため,積層欠陥は非発光再結合中心とならないことが示唆される. STEM-EDSにより,塩素の存在位置特定を試みた.Fig. 3に300°Cで1時間真空加熱した塩素ドープInP/ZnSe/ZnS量子ドットのEDSマップを示す.塩素はInPコアの周囲に分布していることが明らかとなった.300°Cにおいては表面に配位した塩素が脱離することが熱重量・質量分析(TG-MS)から明らかになっており,ここで観測された塩素は,粒子の内部にドープされているものであると言える.今回の観測結果から,コア/シェル界面には塩素がドープされたZnSe層が存在していることが初めて明らかとなり,量子ドットの特性向上メカニズムの解明や今後の設計指針の構築に大きく貢献することが期待される.
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig. 1 (a) 塩素を添加しない場合と,(b) 塩素を添加してシェルを形成した場合のInP/ZnSe/ZnS量子ドットのHAADF-STEM像.(c) 塩素を添加した場合(赤線)と添加していない場合(黒線)の蛍光スペクトルの比較.
Fig. 2 (a) 塩素ドープInP/ZnSe/ZnS量子ドットのHAADF-STEM像.黄色の矢印は積層欠陥の位置を示している.(b) 原子カラムのコントラストに基づいてInPコアの位置を図示した結果.
Fig. 3 塩素ドープInP/ZnSe/ZnS量子ドットのEDS元素マップと,量子ドットの構造の概略図.
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
・共同研究者:東京大学大学院工学系研究科 総合研究機構 幾原雄一教授
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Takafumi Moriyama, Highly luminescent and narrow-band-emitting InP/ZnSe/ZnS quantum dot synthesis by halide modified shell reaction, Applied Physics Express, 16, 015504(2022).
DOI: 10.35848/1882-0786/aca9ba
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 森山喬史,熊本明仁,佐々木洋和,柴田直哉,幾原雄一,“ClドープInP/ZnSe/ZnSコアシェル量子ドットの構造解析”日本顕微鏡学会 第78回学術講演会,令和4年5月9日.
- T. Moriyama, A. Kumamoto, H. Sasaki, N. Shibata and Y. Ikuhara, “Structural Analysis of Highly Luminescent and Narrow Bandwidth Cl doped InP/ZnSe/ZnS Quantum Dot Heterostructures”, EMC2022, Ohio, US, 令和4年6月30日.
- T. Moriyama, A. Kumamoto, H. Sasaki, N. Shibata, and Y. Ikuhara, “Atomic structure of Cl-doped InP/ZnSe/ZnS quantum dots” in preparation.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件