【公開日:2025.07.07】【最終更新日:2025.07.04】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22NI1102
利用課題名 / Title
TOF-SIMS測定のための細胞前処理法の比較
利用した実施機関 / Support Institute
名古屋工業大学 / Nagoya Tech.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
生体由来素材,質量分析/Mass spectrometry,質量分析/Mass spectrometry,分離・精製技術/ Separation/purification technology
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
正木 紀隆
所属名 / Affiliation
国立遺伝学研究所
共同利用者氏名 / Names of Collaborators Excluding Supporters in the Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Supporters in the Hub and Spoke Institutes
宮川鈴衣奈,山本義哉
利用形態 / Support Type
(主 / Main)技術代行/Technology Substitution(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
質量分析イメージング法(MSI)は生体を構成する分子を網羅的に検出し,それらの空間分布を同時に可視化する.MSIは,発生や疾患などの生命現象における変化を分子組成の差として特徴づけ,そのメカニズムの解明や操作につながる知見を得るための強力な手法である.生物試料の解析にはマトリクス支援レーザー脱離イオン化型(MALDI)MSIが多くもちいられるが,イオン化にレーザーをもちいるため空間分解能は数μmが限界であり,細胞内部の分子分布を明らかにするには不足している.光学限界を越えて数十nmの空間分解能でMSI測定が可能である飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)をもちいることで,我々は細胞核およびその内部の三次元構造を明らかにすることに成功した[1].しかし同時に,従来MSIでもちいられてきた新鮮凍結固定では細胞内脂質分布が保持されておらず,固定法の改善が必要であるという問題点も明らかになった.例えば電子顕微鏡観察などでもちいられる固定法は細胞の内部構造を保持することができるが,化学的な変性による分子の構造や質量への影響が避けられない.そこで本研究ではTOF-SIMS測定において遊離細胞を基質に付着させるための固定方法[2]に着目し,細胞の内部構造を保持することが可能かを検証した.そのために脂肪細胞へ分化誘導した3T3-L1細胞をもちい,脂肪滴の構造が保持された状態でその内部のトリアシルグリセロール(TG)のTOF-SIMS解析を試みた.
実験 / Experimental
3T3-L1細胞の培養および脂肪細胞への分化[3]は70%エタノール溶液で滅菌したITOコートスライドガラス上で行った.分化誘導から7日後に0.25%グルタルデヒド溶液で15分間室温で固定し,0.15M酢酸アンモニウム溶液で三度洗浄した後に風乾したものを測定した.0.25%グルタルデヒド溶液の代わりにDPBSをもちいて調整した細胞を未固定試料として測定し,脂肪滴の形態と質量分析スペクトルの比較にもちいた.試料表面をガスクラスターイオン銃(GCIB)をもちいてスパッタクリーニング(20 kV, 5 nA, raster: 2000 μm, 30秒)した後,50μmの分析領域に対し正・負両イオンモードでTOF-SIMS測定を行った.イオン像の構築にはunbunchモードで1時間積算したデータをもちいた.シグナルの同定には,同じ分析領域においてbunchモードで5分間積算した質量分析スペクトルから推定されたm/zの値をもちいた.
結果と考察 / Results and Discussion
脂肪滴内部のTG(16:0/16:0/16:1)とTG(16:0/16:0/16:0)に相当するm/z 802,804のシグナルを検出することができた(図1).TGの断片であるパルミチン酸(m/z 255)とパルミトレイン酸(m/z 253)が脂肪滴様の分布を示した(図2)ことからその構造が保持できたと考える.一方で未固定の試料では脂肪滴は破損し脂肪酸も漏出していた.
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 負イオンモードで取得した固定試料の質量分析スペクトル(m/z 400 - 1000)
m/z 802と804のピークはそれぞれTG(16:0/16:1/16:1)とTG(16:0/16:0/16:1)に相当する.
図2 固定試料と未固定試料の負イオン像
細胞の形状をtotal ionで,リン脂質の分布をPO3−(m/z 79),TGの分布をパルミトレイン酸 (m/z 253)のシグナルでそれぞれ示した.未固定の細胞では脂肪滴がつぶれ,漏出したTGがリン脂質と混ざりあっている様子がmerge像に反映されている.scale bars = 10 μm.
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
[1] Masaki et al., Scientific
Reports 5. 10000, 2015
[2] Nagata et al. Surface
and Interface Analysis 46. S1. 185-188 2014
[3] Masaki & Okazaki Biomedical
Optics Express 9. 5. 2095-2103 2018
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件