利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.12】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24OS0010

利用課題名 / Title

分子運動を伴うタンパク質複合体の電子顕微鏡構造解析

利用した実施機関 / Support Institute

大阪大学 / Osaka Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials(副 / Sub)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials

キーワード / Keywords

電子顕微鏡/ Electronic microscope


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

三尾 和弘

所属名 / Affiliation

産業技術総合研究所

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

三尾和弘

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

光岡薫

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),共同研究/Joint Research


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

OS-004:300kVクライオ電子顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

クライオ電子顕微鏡を用いてB. tepida LH1-RCの氷包埋像を撮影し、単粒子解析によって2.95Åの分解能で密度マップが得られた。得られたマップからは紅色非硫黄細菌に特徴的な孔が確認され、光合成反応におけるキノン輸送に重要な役割を持つものと考えられた。

実験 / Experimental

B. tepida株はリンゴ酸やミネラルが含まれた培地に加えられ、42℃の白熱照明環境下において3日間嫌気的に培養された。菌画分は8,000 rpmの遠心処理によって回収された。30 mM Tris-HCl(pH 8.5)で分散された後、超音波処理、超遠心処理によって沈殿に光合成膜画分クロマトフォアが得られた。クロマトフォアは30 mM Tris-HCl(pH 8.5)で懸濁され、最終濃度1%(w/w)でn-Dodecyl-β-D-maltoside(DDM)が添加された後、60分間の撹拌により可溶化された。超遠心処理によって上清にLH1-RCが分画された。LH1-RC画分は0.1 μm←本当か? のフィルターによって膜断片が取り除かれた。また撮影における界面活性剤の影響を検討するため、LH1-RC画分は0.03% DDMと0.03% Lauryl Maltose Neopentyl Glycol(LMNG)を含むバッファーによって平衡化されたHiTrapQ陰イオン交換カラム(ytiva)にそれぞれロードされた。溶出試料はMWCO 100 kDaの遠心式限外濾過フィルター(Amicon Ultra)によって溶液量50 uLまで濃縮された。濃縮試料はSuperdex 200 Increaseゲルろ過カラムにロードされ、それぞれ0.03% DDMと0.003% LMNGを含むバッファーで精製された。ピークフラクションの濃度はそれぞれ8.3 mg/mL、5.5 mg/mLであった。
 グリッドの作製には試料凍結装置のVitrobot(FEI)を用いた。グロー放電されたグリッド(Quantifoil、R1.2/1.3、300メッシュ、Mo)に5 mg/mLに調製された試料が3 μL アプライされた。ろ紙によって余分な試料が8秒間吸い取られた後、グリッドは液体エタンによって瞬間凍結された。 LH1-RC氷包埋像の撮影には大阪大学超高圧電子顕微鏡センターのTitan Krios(FEI)を用いた。電子直接検出器にはK3(Gatan)を用いた。単粒子解析ソフトにはCryoSPARC(v.4.3.1)を用いた。0.03% DDM条件において、7,707枚の電子顕微鏡画像がそれぞれ50フレームの動画としてK3カメラによって取得された。読み込まれた画像はMotion Correction、CTF Estimationが施され、ピッキングと2次元クラス分けによって1,381,158個の粒子が選別された。3次元初期モデルの作成、精密化によって1,046,179個の粒子から密度マップが得られた。

結果と考察 / Results and Discussion

LH1-RC像の撮影における界面活性剤の検討
膜タンパク質の撮影において、界面活性剤の種類や濃度が画像のS/N比や試料の表面張力に大きく影響する。LH1-RCの構造解析には界面活性剤としてDDMが広く用いられているが、ミセルが形成することによるS/N比の低下に懸念があった。我々はDDM条件に加え、臨界ミセル濃度が低く、タンパク質の可溶化やS/N比の向上に適すると報告されているLMNG条件も用い、界面活性剤の検討を行った。まず負染色像を観察したところ、0.003% LMNG条件と0.03% DDM条件どちらにおいても丸みを帯びた単一のLH1-RC粒子像が確認された。分散性も良く、粒子の構造は安定していると考えられた。しかし氷包埋像において、0.003% LMNG条件では粒子が互いに連なる鎖状構造が確認された。LH1-RCにとってLMNG濃度が低すぎたために可溶化状態を保つことができず、剝き出しとなった疎水領域同士で連結したと考えられた。一方で0.03% DDM条件では氷包埋中においても分散されたLH1-RC粒子像が確認された。本撮影には可溶性と分散性に適した0.03% DDM条件を用いることとした。LH1-RC像の単粒子解析結果CryoSPARCによって1,381,157個の粒子から2次元平均像が作成された。選別された粒子を用いて3次元構造を作成、精密化を行い、2.95Åの分解能でLH1-RCの密度マップが得られた。密度マップとその後の原子モデリングによって確認された特徴として、1つ目はRC複合体にシトクロムサブユニットが含まれていること。2つ目はLH1複合体にαサブユニット、βサブユニット、γサブユニットが含まれていること。3つ目は17番目に存在し得るγサブユニットが欠けており、孔が形成されていること。4つ目は孔周辺に位置する色素の電子密度が薄いこと。これらの特徴はB. viridisのLH1-RC立体構造と一致しており、紅色非硫黄細菌に存在するLH1-RCの構造的特徴を反映しているものと考えられた。
考察
B. tepidaのLH1-RCにおいてもB. viridisのLH1-RCと同様に孔が形成された複合体構造が確認された。LH1複合体における孔の有無は光合成細菌種によって異なっているが、本研究を通じ、紅色非硫黄細菌においてはキノン分子が孔を通過することで光合成反応が行われていると考えられた。また孔周辺の密度が弱いことは周囲の柔軟性を示しており、キノン輸送の際はLH1複合体とRC複合体がダイナミックに動くことでキノン分子をシトクロムbc1複合体までポンプ様に送り出していると考えられた。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

Tatsunari Ohkubo, Kazuhiro Mio, Yuji C. Sasaki., “LIGHT-INDUCED INTRAMOLECULAR DOMAIN DYNAMICS OF LIGHT-HARVESTING PROTEIN LH1-RC OBSERVED BY THE DIFFRACTED X-RAY BLINKING METHOD.”, Biophysical Society 2024 Annual Meeting(2024/02/10-14)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. Tatsunari Ohkubo, Tatsuya Arai, Hiroshi Sekiguchi, Kazuhiro Mio, Yuji C. Sasaki, “INTRAMOLECULAR DOMAIN DYNAMICS OF LIGHT-HARVESTING PROTEIN LH1-RC OBSERVED BY THE DIFFRACTED X-RAY TRACKING METHOD”, 21st IUPAB & 62nd BSJ JOINT CONGRESS 2024(2024/06/24-28)
  2. Tatsunari Ohkubo, T. Arai, D. Sasaki, H. Sekiguchi, K. Ichiyanagi, S. Nozawa, R. Fukaya, K. Mio, Y.C. Sasaki, “Real-time dynamics of LH1-RC complex under light irradiation observed by the diffracted X-ray tracking method”, 9th International Symposium of Quantum Beam Science(2024/10/19-22)ポスター発表
  3. Tatsunari Ohkubo, Kazuhiro Mio, Hiroshi Sekiguchi, Yuji C. Sasaki, “Real-time observation of light-induced dynamics of LH1-RC complex using the diffracted X- ray tracking method”, Biophysical Society 2025 Annual Meeting(2025/02/15-19) ポスター発表
  4. 大久保達成, 新井達也, 関口博史, 三尾和弘, 佐々木裕次, “光捕集タンパク 質 LH1-RC の光依存的な分子動態”, 第 24 回日本蛋白質科学会(2024/06/11- 13)ポスター発表
  5. 大久保達成, 新井達也, 佐々木大輔, 関口博史, 一柳光平, 野澤俊介, 深谷亮, 三尾和弘, 佐々木裕次, “X 線 1 分子追跡法による光捕集タンパク質複合体の 構造動態検出”, 第 38 回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム (2025/01/10-12)口頭発表
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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