利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.04.22】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24KU0110

利用課題名 / Title

HVEM法を用いたFe-4%Si合金の繰り返し応力負荷によって発達する転位組織観察

利用した実施機関 / Support Institute

九州大学 / Kyushu Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

電子顕微鏡/ Electronic microscope


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

定松 直

所属名 / Affiliation

鹿児島大学理工学域工学系

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

田中 將己

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

KU-001:電子分光型超高圧分析電子顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 金属材料は,繰り返しの機械的負荷を受けることで内部に転位が蓄積し,特有の転位構造が形成される.これらの転位構造は,疲労き裂の発生や進展と密接に関係しており,疲労破壊のメカニズムを理解するためには,転位組織の発達過程を明らかにすることが重要である.また,鋼にSiを添加すると,一般に疲労強度は向上する傾向があるが,その詳細なメカニズムについては転位組織の観点からは十分に解明されていない.
そこで本研究では,Fe-4%Si鋼に繰り返し応力を加えた試料について,超高圧電子顕微鏡を用いて転位構造を観察する.これにより,転位組織の発達過程を明らかにすることを目的とする.

実験 / Experimental

 試料にはFe-4%Si鋼を用いた.この試料を砂時計型に加工し,繰り返し応力負荷試験を実施した.試験条件は,応力振幅290 MPa,応力比R = −1とした.試験は,試験片が破断するまで継続して行った.本材料は疲労強度にばらつきが見られる傾向があり,本研究では,6万8千回(以下,6万サイクル材)および210万回(以下,210万サイクル材)の繰り返し数で破断した試料を用いた.TEM試料の作製にあたっては,破断した試料の平行部を放電加工により垂直に切断し,その後機械研磨によって薄膜化を行った.次に,φ3 mmに打ち抜き加工を施し,ツインジェットを用いた電解研磨によって最終仕上げを行った.
観察には,九州大学が所有する超高圧電子顕微鏡JEM-1300NEFを使用した.加速電圧は1250 kVとし,連続傾斜観察および消滅実験によって,試料中の転位組織の解析を行った.

結果と考察 / Results and Discussion

 6万サイクル材および210万サイクル材において観察された転位組織を,図1および図2に示す.210万サイクル材では,6万サイクル材と比較して繰り返し負荷回数の増加に伴い,転位密度の増加が観察された.転位密度は,6万サイクル材で8.7×10¹²,210万サイクル材で2.3×10¹³であった.転位構造解析の結果として,6万サイクル材および210万サイクル材におけるバーガースベクトル解析結果およびすべり面解析結果を,それぞれ図3,図4,図5,図6に示す.一般に,Siを添加すると{112}面でのすべりが抑制され,{110}面でのすべりが主となること,また交差すべりが抑制され転位がプラナー化することが知られている.解析結果から,おおよそのすべり面は{110}面であったが,一部には{112}面のすべりも観察された.さらに,転位が途中ですべり面を変える交差すべり構造も,6万サイクル材・210万サイクル材の両方で観察された.ただし,6万サイクル材では異なる{110}面間での交差すべりであったのに対し,210万サイクル材では転位の合体・消滅によって生じていることが示唆された.転位の発達過程を解明するために,転位の成分分析を行った.転位成分分析は,各転位をセグメントに分解し,バーガースベクトルと転位線がなす角度をもとに分類した.その角度が0度であるものはらせん転位,90度であるものは刃状転位である.この結果から,繰り返し回数が6万回から210万回に増加するにつれて,主に刃状成分が増加していることが分かった.したがって,本試料における転位組織の発達過程では,この刃状成分の増加をモデル化することが重要であると考えられる.
 一般にFeでは,刃状転位よりもらせん転位のパイエルスポテンシャルが高く,刃状転位は残存しにくいとされている.しかし,Siを添加することによって刃状転位が残存することについては,Mohriらのシミュレーション結果[1]をもとに考察する.Mohriらの結果によれば,Siを添加することでキンク対の形成頻度が上昇し,異なる{110}面上に形成されたキンク対が衝突することにより,転位の運動障害(ジョグ)が形成されるとされている.このジョグが繰り返し応力負荷下でも形成されると考えると,それが転位の運動障害として作用することが示唆される.ジョグが複数形成されることで,ジョグ間の転位は運動が困難となり,残存しやすくなる.これが,刃状成分の増加につながる主なメカニズムであると考えられる.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1.6万サイクル材における明視野像



図2.210万サイクル材における明視野像



図3.6万回サイクル材バーガースベクトル解析結果



図4.6万サイクル材すべり面解析結果



図5.210万サイクル材バーガースベクトル解析結果



図6.210万サイクル材すべり面解析結果



図7.6万回サイクル転位成分分析結果



図8.210万サイクル材転位成分分析結果


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

[1] npj Computational Materials volume 3, Article number: 10 (2017),


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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