利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.12】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24MS1015

利用課題名 / Title

特異な磁気特性を発現する逆ペロブスカイト型マンガン基窒化物に関する研究

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed(副 / Sub)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions

キーワード / Keywords

逆ペロブスカイト, 窒化物, 磁性体


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

川口 昂彦

所属名 / Affiliation

静岡大学学術院工学領域電子物質科学系列

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

宮島 瑞樹,伊木 志成子

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-220:SQUID (MPMS3 DC)
MS-223:熱分析(固体、粉末)


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

本研究では、逆ペロブスカイト型構造を有するマンガン窒化物のひとつであるMn3AN (A=金属元素、半導体元素)に着目した。本物質はマンガンの磁気モーメントがカゴメ格子を組むことで、磁気フラストレーションを生じることや、理論計算においてフェルミ準位近傍にワイル点の存在が示唆されていることから、ワイル磁性を発現することが期待されている。実際、A=Ni, Snにおいて比較的大きな異常ホール効果の発現が報告されている。また、A=Geの場合、Γ4g型の磁気秩序を組んだ場合A=Snに比べて数倍大きな異常ホール効果を発現し得ることが理論計算から示唆されている。さらに、A=(Ge,Mn)とすることで、磁気転移温度が室温以上に上昇することを確認している。これまでに我々はMgO(001)基板上へのMn3(Ge,Mn)N単相薄膜のエピタキシャル成長に成功しているが、得られた薄膜では異常ホール効果は観測されなかった。この原因として、Mn3Snで見られたように、異常ホール効果の磁場印加方位依存性がMn3(Ge,Mn)Nにもある可能性を考えた。そこで本研究では、これまでの(001)面外配向薄膜と異なる、(111)面外配向Mn3(Ge,Mn)Nエピタキシャル薄膜を作製し、そのMn3(Ge,Mn)N薄膜の磁場下輸送特性の調査を目的とした。そのために、PLD法を用いて、MgO(111)基板およびGaN/Al2O3(0001)基板上に、Mn3(Ge,Mn)N薄膜を作製した。それぞれの基板上で、(111)面外配向エピタキシャル成長していることが確認された。ホール効果測定の結果、いずれの薄膜でも異常ホール効果の発現は見られなかった。文献調査の結果、異常ホール効果の発現には十分な格子歪の導入が必要であると考えられる。一方、抵抗率およびMRの測定からGaN上の薄膜でのみバルクと異なる振る舞いが見られ、MRは最大で80%(7 T, 150 K)と比較的大きな値が見られた。これは一般的な機構では説明できず、より詳細な調査が必要であることが分かった。

実験 / Experimental

Mn3(Ge,Mn)N薄膜はパルスレーザー堆積(PLD)法を用いて作製した。Mn2N0.66, Geの混合粉末の混合粉末を真空封入した石英管内で固相反応により合成し、単相の多結晶粉末試料を得た。得られたMn3(Ge0.6Mn0.4)N粉末を放電プラズマ焼結法で焼結し、これをPLD法のターゲットとした。レーザーにはNd:YAG 4倍高調波(266 nm, 10 Hz)を用い、背景真空度4×10-5 Pa、基板温度500℃で20-30 nm程度の膜厚となるように成膜を行った。基板にはMgO (111)、Al2O3 (0001)、GaN/Al2O3 (0001)を用いた。得られた薄膜はX線回折(XRD)や蛍光X線分析(XRF)によって、結晶、膜厚、組成を評価した。また、輸送特性測定にはMPMS-3(カンタムデザイン社)の抵抗測定オプションを用いた。

結果と考察 / Results and Discussion

XRDの結果、Al2O3基板上では薄膜由来の配向ピークは見られなかった。大きな格子不整合性による多結晶化か、あるいはAl2O3表面の酸素と反応して酸化物を形成した可能性が考えられる。一方、GaN/Al2O3 (0001)基板上およびMgO(111)基板上では(111)面外配向したMn3(Ge1-xMnx)Nエピタキシャル薄膜が成長していることが明らかとなった。組成はx=0.2-0.3程度であった。ここで、MgO(111)基板上の薄膜では微量のMnO相もエピタキシャル成長して混在していることが分かった。MnO相形成の原因はターゲット中の微量酸化物由来あるいはMgO基板表面の水酸化物との反応由来であると考えられる。次に、ホール効果測定を行ったところ、どちらの薄膜でも異常ホール効果は観測されなかった。この原因について考察する。Y. Youらによって報告されたMn3SnN薄膜の結果では、面外格子定数の短い薄膜でのみ異常ホール効果を発現しており、著者らは薄膜の格子歪みが異常ホール効果発現に必要であると主張している。今回得られた薄膜では格子歪は小さく、磁気構造が変化するほどの格子歪ではなかったと考えられる。以上の考察が正しければ、異常ホール効果を発現させるためには、エピタキシャル歪を導入するか、熱膨張係数の大きく異なる基板上に成長すればよい。後者の手法としては例えば、Mn3GeNはの熱膨張係数は約23 ppm/Kであるため、約2 ppm/KであるSi基板上にエピタキシャル成長することで、より大きな格子歪が導入され、異常ホール効果の発現が期待される。 さらに今回、現行の磁気デバイスで利用されている磁気抵抗効果(MR)も測定したところ、MgO(111)基板上の薄膜では2 KにおいてもMR は1%未満しかなかったが、GaN/Al2O3(0001)基板上の薄膜では、最大で約80%(7 T, 150 K)のMRを発現した。30 K以下では負のMR、40 K以上で正のMRとなり符号反転も見られた。また抵抗率の温度依存性も二つの薄膜で振る舞いが異なった。一般的にMRは極低温ほど大きいが、150 Kが最大となり、300 Kでも5%程度(7 T)のMRを示しており興味深い。2 K-350 Kの抵抗測定の結果、MgO(111)基板上の薄膜では300 K付近では数mΩcmの抵抗率を示し、低温まで金属的に抵抗が減少した。これはバルク試料と近い振る舞いである。一方、GaN上の薄膜では300 K付近ではサブmΩcmの抵抗率を示し、150 K付近までは金属的に減少したが、150 K以下では半導体的に上昇に転じ、2 Kまでに3桁抵抗率が上昇した。正常ホール効果も強く温度依存性が見られ、150 K以下では磁場に比例しない振る舞いも見られた。これはフェルミ準位近傍のバンド構造が大きく変化しており、正孔・電子混合キャリアであることを示唆している。混合キャリアの場合、補償効果によりMRが大きくなることが理論的に示されており、今回の結果をある程度説明することができる。ただし、MRや抵抗の温度依存性はそれだけでは説明できず、その他の原因、例えばGaNとの界面反応やGaNとのキャリアの交換といった機構を考慮して議論をする必要がある。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

・MPMS-3の装置管理者である宮島瑞樹様、藤原基靖様、伊木志成子様に感謝します。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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