利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.14】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24MS0042

利用課題名 / Title

水分子が誘起するカンプトテシン集合体のキラル電子物性の開拓

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

キラリティ誘起スピン選択性(CISS),バルク光起電力効果,キラル電子物性,円偏光発光


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

重光 孟

所属名 / Affiliation

大阪大学大学院工学研究科 応用化学専攻

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

山本浩史

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-301:有機FET


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

カンプトテシン集合体における水分子の影響を、電気伝導性、CISS効果、バルク光起電力効果の観点から評価した。特に、円偏光発光特性との関連を明らかにすることを目的に共同研究を行った。実験結果より、水分子の存在が分子集合構造を変化させ、円偏光発光(CPL)の発現に寄与することが示唆された。

実験 / Experimental

本研究では、カンプトテシン(CPT)集合体の電子・光物性に及ぼす水分子の影響を評価するため、3種類の試料(通常水含有型、無水型、重水型)を調製した。純粋なCPTをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、これを水または1-ブタノール中に分散させた後、溶媒の緩慢な蒸発により結晶化を行った。水素結合の微細な影響を明らかにするため、重水型(D2O)を用いて同位体効果を評価した。電気伝導性評価には、4端子法を採用し、クライオスタット内に設置した試料に対して4 Kから300 Kの温度範囲で抵抗測定を行った。CISS効果評価には、CPT集合体をスピンバルブ構造に薄膜化し、磁性電極間でスピン依存性の電流測定を行った。さらに、バルク光起電力効果の検出には、AM 1.5G太陽光シミュレーターを用いて照射し、IV特性およびスペクトル応答を記録した。 すべての測定は山本浩史教授の支援の下、光電子計測・磁性測定装置を駆使して実施した。装置のキャリブレーションと再現性検証を経た上で、各種データを取得した。

結果と考察 / Results and Discussion

本研究により、カンプトテシン集合体における電子・光機能が水分子の存在によって顕著に変化することが明らかとなった。以下に、各測定結果とその考察を示す。1. 電気伝導性の評価すべてのCPT集合体で、室温において~10-8 S/cm以下の電気伝導性であることが明らかとなった。それぞれのCPT分子集合体は、分子間の距離や配向を調節し、π-πスタッキングの最適化を通じて電荷輸送経路が変化し、その際に生じるCISS効果に差異が生じると考えていた。しかしながら、電気伝導性は極めて低く、CISS効果の発現は確認が困難であることが明らかとなった。2. CISS効果の評価スピンバルブ構造を用いた電気伝導測定では、すべてのCPT集合体においてCISS効果を評価することは困難であった。これは前述したように、電気伝導性が極めて低かったため、電流量が小さく検出困難であったためである。3. バルク光起電力効果の評価太陽光シミュレーターを用いた光起電力測定では、水型CPT集合体において、照射に応じた明確な光電流はほとんど観測することができなかった。IVカーブにおいても短絡電流(Isc)および開放電圧(Voc)が観測され、光電変換効率は~0.01%以下と極めて低かった。この要因についても、CPTがほとんど絶縁体であることに起因すると考えられる。CPTがほとんど絶縁体であり、電流量が測定できなかったことは非常に残念であったが、CPLはCISS効果によるものではなく、別の要因にあることを示唆している。共同研究での結果を踏まえて、理論計算を行った結果、単分子状態では電気および磁気双極子モーメントのなす角がCPL発現に適さないことが示唆された。興味深いことに、集合体状態においてはその角度がほぼ0度となり、CPL強度増大に理想的な構造的要件を満たすことが明らかとなった。これにより、水分子による集合体構造の制御が、CPLの発現機構に深く関与する可能性が示唆された。 絶縁性であったためにCISS等の電流測定は困難だったが、水分子による集合体構造の変化が、CPLの強度増大に繋がるという新たな機構的示唆が得られた。本設備の活用により、構造─物性相関の探索が進展した。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

現在、本研究結果の一部を理論・実験の両面から整理しており、国際ジャーナルへの投稿を検討中である。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 分子研研究会「キラリティが関連する動的現象」発光団を複数有する環状オリゴ糖のキロプティカル特性の動的変化 重光孟(2025年3月10日)
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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