【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.26】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
24MS0032
利用課題名 / Title
カイラル分子/強磁性金属接合における強磁性共鳴
利用した実施機関 / Support Institute
自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
カイラル分子、強磁性金属、スピン流
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
山田 貴大
所属名 / Affiliation
東京工業大学理学院物理学系
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
三国 宏樹
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
山本 浩史
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
MS-217:電子スピン共鳴(E580)
MS-220:SQUID (MPMS3 DC)
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
本研究では、電子スピン共鳴装置を利用して、カイラル分子/強磁性金属接合における強磁性共鳴を測定した。カイラル分子吸着による磁気共鳴スペクトルの変化を観測した。共鳴線幅の磁場角度依存性から磁気ダンピングが異方的に変化することがわかった。さらに、磁場の極性に応じた共鳴磁場のシフトが観測され、カイラル分子の端に生じるスピン偏極状態と強磁性金属の局在電子スピンとの間に交換相互作用が存在する兆候をつかむことができた
実験 / Experimental
分子科学研究所山本グループ内で、蒸着器を用いてガラス基板上にAu(tAu)/Ni(5 nm) (tAu = 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 10 nm) 二層膜を作製した後、Au膜上にチオール自己組織化膜を形成させた。自己組織化膜には、カイラル分子α-helix polyalanine (AHPA)のL体とD体、参照分子膜としてC10H22Sを用いた。共用利用設備である電子スピン共鳴装置Bruker社製E580を用いて、分子吸着の前後で、Niの強磁性共鳴を測定した。また、分子吸着による磁性の変化は共用利用設備であるMPMS-3により測定した。
結果と考察 / Results and Discussion
カイラル分子のらせん軸に沿って電流を印加すると分子の掌性に応じて巨大なスピン偏極が生じる現象に近年大きな注目が集まっている。この現象は、カイラル誘起スピン選択性と呼ばれ、構造的なカイラリティとスピン軌道相互作用により生じると考えられている。スピン偏極状態は一般的には電流等の外場印加により生じる非平衡状態であるが、カイラル分子を金属表面に接合させるだけでも分子の掌性に応じたスピン偏極状態が定常的に生じる可能性も示唆されており、カイラル誘起スピン選択性に関するさらなる実験的知見が必要とされている。本課題では、有機カイラル分子/強磁性金属接合において、分子の掌性に起因するスピン偏極と強磁性体との相互作用を磁化ダイナミクスの測定を通して解明することを目指した。 Au/Ni上にチオール自己組織化膜を形成したものを試料として使用した。自己組織化膜には、カイラル分子-helix polyalanine (AHPA)のL体とD体、参照分子膜としてC10H22Sを用いた。分子吸着の前後で、電子スピン共鳴装置を用いて、Niの強磁性共鳴の磁場印加角度依存性を測定した。面内磁場印加時と比べて面直磁場印加時に、強磁性共鳴の線幅が大きく変化した。共鳴線幅の変化はC10H22SよりもAHPA吸着時の方が大きい。共鳴線幅の変化は磁気ダンピングの変調を意味しており、カイラル物質との接合による異方的な磁気ダンピングの発現は先行研究でも報告されている [1]。本研究ではさらに、磁気ダンピング変化のAu膜厚依存性から、Niから拡散するスピン流の輸送特性の変化を解析した。Au膜厚の増加に伴う磁気ダンピング変化の減少は、Auとカイラル分子吸着界面におけるスピンミキシングコンダクタンスにより説明が可能であると分かった。さらに、L-AHPAを吸着した試料においては、面直磁場を印加時に磁場の極性に応じて共鳴磁場がシフトした。D-AHPAを吸着した試料では純度の問題から明瞭なシフトは観測されなかったが、共鳴磁場の有意なシフトは分子端に生じるスピン偏極状態とNiとの交換相互作用により生じたと考えられる。このように、今年度の共同利用研究により、カイラル分子の端に生じるスピン偏極状態とNiの局在電子スピンとの間に交換相互作用が存在する兆候を見出すことができた。今後は、D体の高純度化など実験条件を見直し、その実証を目指して引き続き調査を行う予定である。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
参考文献 [1] R. Sun et al., Sci. Adv. 10, eadn3240 (2024).
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 三国宏樹, 佐藤拓朗, 山本浩史, 佐藤琢哉, 山田貴大, “有機カイラル分子/強磁性体接合における異方的な磁気ダンピング” 分子研研究会 「キラリティが関連する動的現象」令和7年3月10日~12日 (ポスター発表)
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件