【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.04.28】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
24NI1902
利用課題名 / Title
Fe-Ni-Al合金における析出B2粒子がラスマルテンサイト組織形成におよぼす影響
利用した実施機関 / Support Institute
名古屋工業大学 / Nagoya Tech.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)その他/Others(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
鉄鋼材料, 走査型電子顕微鏡, 電子線後方散乱回折法(EBSD法),電子顕微鏡/ Electronic microscope
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
森谷 智一
所属名 / Affiliation
名古屋工業大学工学部物理工学科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
鉄鋼のラスマルテンサイト組織は,母相オーステナイト(γ)と特定の結晶方位関係(Kurdjumov-Sachs関係:K-S関係)があり,バリアントと呼ばれる24通りの等価な結晶方位のいずれかが一つのγ粒に対して生成することが古くから知られている.しかしながら,未だにマルテンサイト変態前の母相γにおいて特定のバリアントのマルテンサイトが生成する場所を予測することは困難であり,マルテンサイトのバリアントがどのような原理によって選択されるのかは明らかにされていない.それに対して著者らの研究グループでは,高温でγ相とB2相が共存する二相共存領域が存在するFe-Ni-Al合金を用いて,マルテンサイト変態前のγ母相中にB2相の粒子を析出させると,特定の条件下で析出B2粒子の周囲に生成するラスマルテンサイトは,そのB2相粒子と同じかもしくは近い結晶方位のバリアントが優先的に生成する現象を見出した.しかしながら,この現象が,析出B2粒子の存在に関わらず元々その場所に生成するバリアントが決まっているのか,それともB2粒子の存在が元々その場所で生成する予定だったバリアントと違うバリアントを生成させたのか,どちらなのかは明らかにできていない.そこで本研究では,Fe-Ni-Al合金においてB2相の粒子が存在する場合と存在しない場合の同一視野を観察し,B2析出粒子がラスマルテンサイト組織形成に与える影響について明らかにすることを目的とした.
本研究ではγ+B2二相共存領域が存在し,なおかつラスマルテンサイトが生成する合金としてFe-Ni-Al合金を用いるが,一般に市販されている合金ではないため,自らで溶製する必要がある.そのため,溶製した合金の組成を特定するためにFE-SEMであるS-4700(設備ID:NI-019)を用いてエネルギー分散型X線分光法(EDS)による組成分析を行った.
実験 / Experimental
アーク溶解にて電解Fe,電解Ni,Alを用いてFe-Ni-Al合金を溶製した.このように作製した試料を1523Kで熱間圧延し,均質化処理を行ったものをエネルギー分散型X線分光法(EDS)により組成分析を行い,合金の組成をFe-19.8Ni-9.0Al (数字はmol%)と特定した.そのように作製した試料に対し1523Kにて7.2ks保持する溶体化処理後に水冷して得られた試料の状態を(a),(a)の状態の試料を観察・解析した後,同じ試料を温度1123Kに昇温して86.4ks保持する時効処理にてγ+B2二相組織とした後に水冷して得られた試料の状態を(b)とした.(a)及び(b)それぞれの段階で得られた組織に対して,走査型電子顕微鏡(NI-019, SEM)による組織観察および電子線後方散乱回折法(EBSD)を用いた結晶方位の測定を行った.
結果と考察 / Results and Discussion
図1は,Fe-19.8Ni-9.0Al合金についてSEM-EBSDを用いて得られたInverse Pole Figure (IPF) マップである.(a)は1523Kで7.2ks保持した後,水冷して得られるラスマルテンサイト組織,(b)は(a)の熱処理の後に1123Kで86.4ks保持後に水冷して得られたラスマルテンサイト+B2二相組織となっている.(a)と(b)は同一視野観察であり,二つを比較すると黒線で示した旧γ粒界はほぼ保持されていることが分かる.そのため,マルテンサイト変態のメモリー効果が効いていると言え,同じγ粒におけるラスマルテンサイトの分布状態を比較することができる.その前提で(a)と(b)を比較すると,一つのγ粒内におけるラスマルテンサイト組織のバリアント分布は時効処理前後で変化し,(b)の組織は(a)に比べ微細で,かつ様々な種類のバリアントがより複雑に重なり合うような組織となっていた.
(b)の組織,すなわちB2相粒子が析出した後でラスマルテンサイトのバリアント分布が複雑微細になった理由を確かめるため,FE-SEM(S-4700)によって(b)の組織を観察したものが図2である.この二次電子像より,1~2μm程の粒子が粒内・粒界問わずに析出していることがわかる.EDSによりこの粒子の組成を分析したところB2相であることが分かった.
このことから,(a)と(b)の組織の違いは次のような理由であると考えられる.(b)の時効処理によってB2相粒子は拡散変態で析出するため,それぞれの粒子の結晶方位は多様なバリアントとなっている.そのように種々のバリアントの析出B2粒子が微細にかつ多量に分布することで,各B2粒子と接して生成するラスマルテンサイトは析出B2粒子と近い結晶方位のバリアントを選択し,結果的にγ粒内のラスマルテンサイトのバリアント分布は溶体化処理のみで生成するラスマルテンサイト組織に比べて微細で,複雑に絡み合ったような組織となると考えられる.
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 Fe-19.8Ni-9.0Al合金において,(a) 1523Kで7.2ks保持後,水冷して得られたラスマルテンサイト組織 (b) (a)の熱処理の後,1123Kで86.4ks保持後,水冷して得られたラスマルテンサイト+B2二相組織 のそれぞれに対してSEM-EBSD測定をして得られたIPFマップ
図2 Fe-19.8Ni-9.0Al合金において1123Kで86.4ks保持した後水冷して得られたマルテンサイト+B2二相組織のFE-SEM(S-4700)による二次電子像
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 横尾弦大,渡辺義見,佐藤尚,森谷智一,"Fe-Ni-Al 合金におけるB2析出粒子がラスマルテンサイト変態挙動に与える影響" 日本鉄鋼協会2024年第188回秋季講演大会(大阪大学 豊中キャンパス), 令和6年9月19日
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件