テクニカルノート

データリファレンスガイド XPS(VG-Scienta) 装置編

概要

装置名 X線光電子分光装置(XPS)
製造メーカ VG Scienta
製造モデル R4000L1( 光電子検出器)、MX-650(Al-K α単色X線源)
対象物 半導体、金属、絶縁体、有機、高分子材料など、様々な材料に適用可能
測定対象 固体、薄膜、粉体
サンプル調整 非破壊
測定環境 超高真空下
測定情報 元素同定、元素定量、化学結合状態

保有機関

機関名 機器ID ARIM装置名 モデル
自然科学研究機構
分子科学研究所
MS-213 X線光電子分光装置
(X-ray photoelectron spectroscopy)
R4000L1, MX-650

装置の特長・目的

X線光電子分光法(XPS)は固体表面 にX線を照射して表面から放出される光電子のエネルギーを分析することにより、固体表面の元素同定や元素定量および化学結合状態を分析する手法です。XPSは以下の特徴を持ちます。

  • 軟X線(Al線源)を用いると~10 nm程度、硬X線(Cr線源)を用いると~30 nm程度の検出深さで分析が可能
  • Li以上のすべての元素が分析対象
  • 検出下限はおよそ0.1 atomic%程度
  • 基本的に非破壊分析法であるが、イオンスパッタリングと組み合わせる(破壊法)ことにより深さ方向分析が可能
  • 金属、半導体からセラミックスや有機材料まで幅広い材料を分析可能
  • 超高真空下で分析することが必要

XPSはこれらの特徴を活かして薄膜や積層膜の表面・界面分析,表面処理材料の状態分析,表面における劣化・故障解析などに用いられます。
また、分子研のXPS は、グローブボックスを完備しており、大気非曝露での試料導入が可能です。中和銃を用いることで、絶縁物も測定できます。

(引用文献:日本表面科学会編(1998)表面分析技術選書 X線光電子分光法 丸善出版、ISBN‎ 978-4621081556)

計測原理

サンプル画像XPSはX線を試料に照射して試料表面から放出された光電子の運動エネルギーを分析する手法です。X線の励起エネルギー(hν)と試料表面に存在する元素が持つ電子軌道の束縛エネルギー(B.E.)とその電子軌道から放出された光電子の運動エネルギー(K.E.)との間には下記のような運動エネルルギー保存則が成り立ちます。

hν = K.E. + B.E.+Φ (Φ:試料の仕事関数)

サンプル画像X線の励起エネルギーは既知であるため、光電子の運動エネルギーを測定すれば光電子が存在した電子軌道の束縛エネルギーが求まります。この束縛エネルギーは元素固有の値を持つため、元素の同定を行うことができます。また、検出された各元素のピーク面積とそれらの相対感度係数を用いて元素定量を行うことができます。さらに、同一元素の同一軌道の束縛エネルギーは、注目している原子の結合状態により微妙に変化(化学シフト)するため、この変化量を読み取ることで元素の化学結合状態を分析することができます。

(引用文献:日本表面科学会編(1998)表面分析技術選書 X線光電子分光法 丸善出版、ISBN‎ 978-4621081556)

推奨測定条件

【サンプルサイズ】
1 辺が10 mm の六角形ホルダーを使用しています。こちらのホルダーからはみ出さない大きさにしてください。(最大1 辺が20 mm まで)
また、サンプルはできるだけ薄く平坦にしてください。

【前処理】
サンプルをセットするときは、手袋、ピンセットを使用して、サンプル表面およびサンプルホルダーの汚染を防いでください。試料固定の際、特に絶縁体などの場合、試料の導電性がなるべくよくなるように試料全体で均一に固定するようにしてください。試料の固定方法や配置を検討する際は表1の内容を考慮し、注意して取り付けてください。

【推奨実験条件】
XPS 測定においては、装置の推奨条件に準拠してください。具体的には、表2-1および表2-2にある推奨実験条件を使用します。
検出角度、試料の帯電補正方法は試料の種類や分析目的に応じて調整してください。

表1:試料の試料ホルダーへのセッティング方法について

注意事項 注意事項非考慮時に起こりうる現象
試料ホルダーを素手でさわらない。 装置の真空度が悪化する。
試料ホルダーに試料を固定する際、ねじ、ワッシャー、導電テープなどでしっかりと固定する。 試料が移動中にチャンバー内で落下する。
粉末試料の場合、導電テープなどに直接付着させるか、圧着プレスを使用して錠剤に成型してから固定する。固定後、ブロアーを吹きかける。 チャンバー導入時に粉末が飛び、チャンバーを汚す。
粉末試料、絶縁試料の場合、取り付け方も統一する。 試料の取り付け方のばらつきに応じて、試料帯電の程度がばらつく。
試料とホルダーの電気的接触に注意する。 試料とホルダーの電気的接触が不良だと、試料帯電の程度がひどくなる。
同一のホルダーに複数の試料を取り付ける場合、試料の高さをできるだけそろえ、かつ試料間の距離をできるだけ離す。 試料の取り付けの高さが異なると、分析器による光電子の信号検出感度が異なり、分析領域のサイズもわずかに変化する。イオンスパッタリングの際、隣接する他の試料にスパッタされた成分が付着するCross contaminationを発生させる。
励起源の大きさ、分析器の分析している領域の大きさを知ったうえで、試料を準備する。 試料中の観察したい対象物の周辺領域の信号も検知してしまう。

表2-1:Wide scanの推奨実験条件(XPS-VG Scienta-202410-01)

wide scan (normal)

項目名 単位
X線源   AlKa(mono)
X線出力 W 180
Pass Energy eV 200
前述のPass Energyでのエネルギー分解能 Ag3d5/2 のFWHM eV 1.27
計算値 eV -
Auフェルミ端 eV -
計測するBinding Energyの最小値 eV -5
計測するBinding Energyの最大値 eV 1200
Energy Step eV 1

wide scan (fine)

項目名 単位
X線源   AlKa(mono)
X線出力 W 180
Pass Energy eV 200
前述のPass Energyでのエネルギー分解能 Ag3d5/2 のFWHM eV 1.27
計算値 eV -
Auフェルミ端 eV -
計測するBinding Energyの最小値 eV -5
計測するBinding Energyの最大値 eV 1200
Energy Step eV 0.5

表2-2:Narrow scanの推奨実験条件(XPS-VG Scienta-202410-01)

narrow scan (normal)

項目名 単位
X線源   AlKa(mono)
X線出力 W 180
Pass Energy eV 200
前述のPass Energyでのエネルギー分解能 Ag3d5/2 のFWHM eV 0.79
計算値 eV -
Auフェルミ端 eV -
Energy Step eV 0.1

narrow scan (fine)

項目名 単位
X線源   AlKa(mono)
X線出力 W 180
Pass Energy eV 200
前述のPass Energyでのエネルギー分解能 Ag3d5/2 のFWHM eV 0.79
計算値 eV -
Auフェルミ端 eV -
Energy Step eV 0.05

較正/キャリブレーション

【標準サンプル】
高純度のAg箔またはAg板を使用してください。

【実施者】
各装置の担当者が較正を行ってください。

【実施頻度】
1か月に1回の頻度で較正を行うことを推奨します。

【較正方法】

較正は清浄なAg表面を用いて行い、エネルギー分解能、感度、ピークの束縛エネルギー位置を確認します。手順は以下の通りです:

①アルゴンイオンスパッタを使用してAg表面の清浄化を行います。
②Survey scan、 Ag3d narrow scan スペクトルを、推奨されるfi neの実験条件(表2参照)を使用して測定し、Ag3d5/2ピークの半値幅からエネルギー分解能、ピーク強度から感度、ピーク位置を確認します。

運用条件(主な消耗品)

部品 部品 交換時期の目安
Al-Kα単色X線源
(MX650)
(製造終了品)
X線用フィラメン 2~3年程度
X線用アノード 1~2年程度(経験的には3~5年程度)
ハロゲンランプ 2~3年程度
ウォーターフィルター 2~3年程度/td>
中和銃(FG300)
(製造終了品)
中和銃フィラメント 2~3年程度

参考文献

[1] H. Shinotsuka et al.“Automated information compression of XPS spectrum using information criteria”, J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom., 239, 146903 (2020).
https://doi.org/10.1016/j.elspec.2019.146903